541 / 543
努力と励ましと自信
しおりを挟む翌日も、そしてその次の日も。感を取り戻したフローラに導かれるように、ソルディオのダンス特訓、そしてエスコートの練習は続いていった。
「ソルディオ様、だいぶ形になってきましたね」
執事のヘリオスから声がかかると、ソルディオは嬉しいというより、ホッとした表情を見せる。
「見れるぐらいになったのならよかったです。これも根気よくフローラさんが付き合ってくれたおかげですよ」
「あら、そうとは限りませんわ。ソルディオ様の努力あってこそです」
ニコリとほほ笑むフローラに、ソルディオは心奪われる。この笑顔が、優しい言葉が、自分にだけ向けられていることが、何物にも代えがたく嬉しいのだ。
「さぁ、お二人とも、随分と遅くまで頑張られましたからな。湯あみなさって、ゆっくり休まれてください」
ヘリオスは、にこにこと二人を見やりながらお開きだと促した。
「そうですね、また明日もありますからね」
「えぇ、明日も、よろしくお願いします」
明日もと言葉にしてみると、次の約束があるのだと嬉しくなる。辺境では、令嬢であるエルサを追いかけては袖にされ、正直な気持ちさえはっきりとは伝えることもできなかった。女性に対して免疫があるわけでもなく、経験など全くない。だからこそ、今、目の前で、自分にだけ微笑みかけてくれ、次の約束までくれるフローラに、初めて自分が必要とされているような、あたたかさを感じていた。エルサに相手をされていなかったという事だけではなく、自分の不甲斐なさと、選ばれなかったことがソルディオの枷となっている。いくら相手を好きであろうが、相手からの好意がなければ、何も意味をなさないのだと自身が一番わかっている。
「建国祭まであと5日ですね・・・なんだか毎日がとても速く感じます。やっと形になった程度では、女性をエスコートするなんて・・・ましてやダンスを踊るなんて、できそうな気がしませんよ」
「そんなに不安になることはありませんよ。ソルディオ様は、日々、上手になられております。最初は本当にぎこちなかったですが、今は安心して身をまかせられますもの。きっと大丈夫です」
フローラに言われれば、そんな気がしてくるのだから不思議だ。たった一言が、たった少しの微笑みが、ソルディオに自信を与えてくれる。
「ありがとう・・・ございます」
「いえ、何も・・・遅くなってしまいましたわね。ソルディオ様、ごゆっくりやすまれてくださいね。おやすみなさいませ」
「は、はい・・・おやすみなさい・・・」
ホールを去っていくフローラの背を見つめながら、ソルディオは思う。建国祭でのダンス。相手がフローラなら、どれだけ嬉しいのだろう。そして、どれだけ自信をもって踊れるのだろうと。
3
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説
友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
『番外編』イケメン彼氏は年上消防士!結婚式は波乱の予感!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は年上消防士!・・・の、番外編になります。
結婚することが決まってしばらく経ったある日・・・
優弥「ご飯?・・・かぁさんと?」
優弥のお母さんと一緒にランチに行くことになったひなた。
でも・・・
優弥「最近食欲落ちてるだろ?風邪か?」
ひなた「・・・大丈夫だよ。」
食欲が落ちてるひなたが優弥のお母さんと一緒にランチに行く。
食べたくないのにお母さんに心配をかけないため、無理矢理食べたひなたは体調を崩す。
義母「救護室に行きましょうっ!」
ひなた「すみません・・・。」
向かう途中で乗ったエレベーターが故障で止まり・・・
優弥「ひなた!?一体どうして・・・。」
ひなた「うぁ・・・。」
※お話は全て想像の世界です。現実世界とは何の関係もありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
冷遇される王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝この作品もHOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 これも全ては読んで下さる皆様のおかげです✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がるばかり。統治者としては優れている国王カルロスだが、幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした王女アリーヤには見向きもせず、冷遇していた経緯がある。常に公の場に連れ歩くのも側妃ベリンダ。おかげでクラウン王国の臣下らも側妃ベリンダを王妃扱い。はたから見れば哀れな冷遇妃アリーヤだが、実は王妃アリーヤにはその方が都合が良いとも……。
※設定などは独自の世界観でご都合主義。おそらくハピエン♥️
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
そうだ 修道院、行こう
キムラましゅろう
恋愛
アーシャ(18)は七年前に結ばれた婚約者であるセルヴェル(25)との結婚を間近に控えていた。
そんな時、セルヴェルに懸想する貴族令嬢からセルヴェルが婚約解消されたかつての婚約者と再会した話を聞かされる。
再会しただけなのだからと自分に言い聞かせるも気になって仕方ないアーシャはセルヴェルに会いに行く。
そこで偶然にもセルヴェルと元婚約者が焼け棒杭…的な話を聞き、元々子ども扱いに不満があったアーシャは婚約解消を決断する。
「そうだ 修道院、行こう」
思い込んだら暴走特急の高魔力保持者アーシャ。
婚約者である王国魔術師セルヴェルは彼女を捕まえる事が出来るのか?
一話完結の読み切りです。
読み切りゆえの超ご都合主義、超ノーリアリティ、超ノークオリティ、超ノーリターンなお話です。
誤字脱字が嫌がらせのように点在する恐れがあります。
菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。
小説家になろうさんにも時差投稿します。
↓
↓
↓
⚠️以後、ネタバレ注意⚠️
内容に一部センシティブな部分があります。
異性に対する恋愛感情についてです。
異性愛しか受け付けないという方はご自衛のためそっ閉じをお勧めいたします。
悪役令嬢?寝言は寝て言え〜全員揃って一昨日来やがれ〜
みおな
恋愛
アレーシア公爵令嬢。
それが、私の新たな名前。
大人気ラノベの『君に恋したあの場所で』通称キミコイの悪役令嬢であるアレーシア。
確かにアレーシアは、ラノベの中では悪役令嬢だった。
婚約者と仲の良い聖女である平民のヒロインを虐め倒すのがアレーシア。
でも元日本人、そしてキミコイを知っている私がアレーシアになった時点で、物語通りに進むわけないでしょ?
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる