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悶絶のソルディオ

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そうやってウィルフレッドを送り出したその日から、城勤めを終えた二人が揃って公爵邸へと戻ってくる。建国祭のパーティの日まで、ソルディオはアバンス公爵邸に滞在する事となった。毎日一緒に城へ向かっては一緒に帰ってくる二人。まるで仲のよい兄弟のようだが、一定の距離はある。二人は一緒なのだから馬車でと思うところだが、それぞれに馬に跨がって帰ってくる。これはどうしてもウィルフレッドが譲らなかった。少しでも早くレティシアに会いたいが為。屋敷につくと、馬から降り、使用人へブルーノを預ければ、颯爽と駆けていく。その後ろ姿をソルディオは苦笑いしながら見るのだ。


「お帰りなさいませ、上着をお預かりしましょうか?」


たった一言でソルディオの心拍数が上がる。


「い、いえっ、だ、大丈夫ですっ!そ、その、汗もかいてますし・・・」


気まずそうにうつむくソルディオ。声をかけてきたのはフローラだった。


「それではまずは湯浴みされますか?それともお腹すかれてるのでしたら、先にお食事でも」


そんなやり取りに、ソルディオは顔を真っ赤に染める。これではまるで新婚の夫婦のやり取りではないかと。でも、冷静に考えればわかるもの。意識してしまっているのは自分だけだと。だが、今のソルディオにはそれどころではない。少しのやり取りだけで緊張し、心臓がはね上がる。


「じゃ、じゃあ、湯浴みを先に・・・」

「承知しました。ご準備しますので、お部屋にてお待ちくださいませね」

「・・・は、はい」


にこりと微笑みを残し、フローラは去っていった。ソルディオは玄関にてうずくまってしまった。


「・・・はぁぁぁぁ~~~~~~」


緊張から解かれたのもあるのだが、フローラを目の前にすると、ドキドキが押さえられない。つい、あらぬことを口走ってしまいそうになる。うずくまったまま立ち上げれず、両手で顔を隠してソルディオはつぶやく。


「・・・あの人・・・可愛すぎる・・・」


そう、ソルディオは、もう、フローラに心を鷲掴みにされていた。唸りながら頭のなかで考える。メイドをしているということは、平民だろうか。いや、公爵家のメイドなら、行儀見習いとかで、家格の低い家のご令嬢が勤めていることもある。もしも子爵家くらいの令嬢ならば、自分にもチャンスはあるだろうかなどと考えていた。こんなところで悶々と考えていても仕方がないと結論付け、ノロノロと自室となった客間へと足を向ける。寝台に大の字に仰向けになり考える。自分は子爵家子息ではあるが、次男であるが故に次ぐ爵位も領地もない。だからこそ騎士になったわけだが。現在は近衛騎士第一隊隊長という肩書きだけはある。だがそれだけだ。今の自分に、彼女を養うような甲斐性はあるのだろうか。幸せになんてできるのだろうかと悶々とする。ソルディオは、湯浴みの準備が整ったと知らせが入り、バスルームにて湯に浸かりながらもずっとその事を考えていた。




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