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特訓とは
しおりを挟むレティシアはソルディオに対し、ある人のパートナーを勤めて欲しいと依頼をした。だが、ソルディオは、夜会やパーティなど、社交界にデビューすらまともに果たさないまま辺境騎士団へと入団した経緯がある。その事が、ソルディオにとって瑕疵のような気持ちになるなどと思いもしなかった。
「そう気負わないで欲しいですわ」
「ですが・・・」
「相手も何年も社交界から離れていたご令嬢よ?貴方ぐらいが丁度いいかもしれないと思ったの」
「・・・そうなんですか」
「えぇ、だから、まずは、ご令嬢をエスコートする為に、ソルディオ様の特訓ね」
レティシアは、なんだか子どものイタズラのような笑みを浮かべる。
「特訓とは具体的に何を?」
「まずは女性をエスコートすること。それから、ダンスね」
「・・・確かに、今の俺では何の役にもたちませんね」
苦笑しため息をもらすソルディオを見て、ウィルフレッドはレティシアに疑問を投げ掛ける。
「特訓だと言うが、どうやってするつもりだ?」
「もちろんこの屋敷でよ?」
「・・・まさかシアが相手をするわけじゃないよな?」
「それも考えたんだけど」
「ダメだ」
「え?」
「シアをエスコートしていいのも、ダンスに誘っていいのも俺だけだ。だから例え練習だとしても許可はできない」
ウィルフレッドは、ツンっと唇を尖らせたままそっぽを向く。
「考えたけど、私が相手では夫が嫉妬しちゃうから、きっと練習にはならないわ」
ふふっと笑いをこぼすレティシア。
「練習相手は用意しているの」
「そう・・・ですか」
「とにかく、明日から毎日、職務が終わったらウィルと一緒に屋敷に来てくれる?」
「毎日、ですか?」
「えぇ、二週間後の建国祭に間に合わせたいと思っているのです」
「二週間・・・ものになりますでしょうか・・・」
「なって貰わないと困るのです」
断言するレティシアに、何か切羽つまった事情があるのだろうかとソルディオは考えた。
「お眼鏡に叶うかわかりませんが・・・できる限りのことは致します」
「えぇ、よろしくお願いしますね」
断れる雰囲気ではないのを感じとり、返事をせざるを得なかった。公爵家の使用人に、泊まる客室の準備が整ったと知らせが入り、案内された。湯浴みをし、寝台に仰向けになるも落ち着かない。ここが公爵家の客間であり、寝台がふかふかで目にする全てが高級な物に見えるからだろうとソルディオは思っていた。だが、本当は違うだろう。フローラの声、笑顔。脳裏に思い出されるのはそればかりだったのだから。
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