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暗黙の了解
しおりを挟むそれからソルディオの下につく、第一隊の部下達との顔合わせ、他の隊の隊長などと顔合わせなどを行い初日は過ぎていった。レティシアが持ってきていた差し入れをソルディオにもと言うと、ウィルフレッドが嫉妬の嵐ではあったが、屋敷に帰れば手作りのケーキを用意している事を聞き、なんとかおさめた。ケーキが嬉しいのではなく、レティシアが言う、ウィルフレッドだけに特別にというたった一言にご満悦なわけだ。
コンコンコン
そんなやり取りが行われていたところに新たな騎士が入室を求めてきた。
「団長、公爵家の方をご案内いたしました」
「あぁ」
ドアが開くも誰も入っては来ない。
「若奥様、旦那様から言付けされていた用件が済みましたのでご報告に」
ドアの外から聞こえる声に、ソルディオは聞き入ってしまった。なんと心地のよい声なのだろうと。しかしすぐにハッとする。エルサが唯一だとあれだけ思っていたのに、こんなにも簡単に女性に興味を持つなどとあってはならないというのにと。
「ウィル、フローラのお義父様に頼まれていた言付けが終わったみたいだわ。そろそろ屋敷に帰るわ」
「もう帰るのか?」
レティシアがミリアと一緒に騎士団を後にすると、結局ウィルフレッドは早く屋敷に帰りたいとそわそわしだした。屋敷に帰れば夫人には会えるし、毎日ご一緒に寝ておられるのだと言っていたのでは?とアイオロスが宥めるも効き目はない。もう呆れである。
「団長、後は俺とレガリー隊長で引き継ぎなどを行いますからお先にいいですよ?」
「そうか!では頼んだ!」
いやしかしなど、否定の言葉を微塵も発する様子もなく、近くにかけてあった上着を手にすると、颯爽と退出していった。ソルディオも唖然である。
「・・・毎日こうなんです?」
「いつもはないのですよ。たまに・・・そうですね、夫人が絡むときと言ったが正しいでしょうね」
「これでは職務放棄では?」
ソルディオ言うのはもっともなことである。だが近衛には暗黙のルールがある。
「団長が帰りたければ帰す。重要な会議や要人の警護についている時以外は団長の意志が優先です」
ソルディオは呆れる。騎士団長がそれでいいのか。だがアイオロスの話は続く。
「それでないと騎士団長を辞めようとするんですから」
苦笑するアイオロスに、ソルディオは理解できないという表情を見せる。
「陛下自らのお達しなんです」
上から気に入られると些細なこととして許されるなんて、近衛はなんとも自由なんだななどと思う。
「それくらいしか報いることができないと」
「報いる?まるで命の恩人だとでも言いたげですね」
「そのまさかですよ。まぁ、正確には違いますが、人生で最大の幸せの瞬間を台無しにされたんです。自分だったら・・・耐えられませんよ」
「何があったんです?」
「団長と夫人は・・・結婚式をあげれなかったんです」
「は?」
初耳だった。辺境に来た時にだってそんなことは聞いていない。
「どうしてあげてないんです?」
「それはですね・・・」
アイオロスは少しだけ言いづらそうに言葉を紡ぐ。
「陛下の寝室に忍び込んだ者がいました。さらには陛下の命を脅かした者もいました・・・アバンス団長は、結婚式前夜に王宮への呼び出しに応じることになったのです」
アイオロスは静かに語っていった。
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