騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

agapē【アガペー】

文字の大きさ
上 下
509 / 544

コルテオが守ったもの

しおりを挟む


「まるで道具のような物言いだわ」


過去の話を聞き、クレイドルとエルサはよくもまぁ、そんな家柄でコルテオがこんなに素直に育ったものだと思った。だが、裏を返せば、そんな環境だったからこそ、コルテオの自己肯定感が低いのも頷ける。


「コルテオ様、何も気に病むことはないですわ」

「え?・・・どうしてです?」

「そうだな、俺もそう思う」


クレイドルもエルサも、コルテオの心残りである事に対し、気にすることはないと言う。


「どうしてでしょうか・・・」

「考えても見ろ、お前の兄はいくら両親がそういう育て方をしたと言っても、血をわけた兄弟にそういう態度を出す必要はなかったはずだ。その性格は兄そのものだ。まぁ・・・それまでのツケがまわってきたということだ。コルテオの元婚約者の女の家もおかしいが、娘のほうは、兄に懸想していたのかもしれんな」

「兄に、ですか?」

「えぇ、私もそう思います。コルテオ様との婚約がなくなれば・・・それこそ傷を追わされたなどとなれば、ハッサル家の有責として破棄もできましょう。それに、責任の取り方として兄と結婚させろという妥協案を出したように見せかけたのではと。元婚約者の女性にとってはそれは妥協案ではなく、略奪です。婚約者のいる男性を正当な理由に見せかて奪う。そして、それを相手の父親が入れ知恵していたとすれば?」

「俺もそう考える。相手の家からしてみれば、騎士であるコルテオが娘を守りきれなかった。傷物にされたと言い、提携する事業を有利な条件に向けることができる。それこそハッサル家の世間の、社交界での体裁が悪くなれば大変だろう?とでも言ったと推測すれば」

「ハッサル家は嵌められたと・・・」

「そう言えるな」


コルテオはクレイドルとエルサの推測に呆然とする。


「だが君は一つ守ったな」

「何を・・・でしょう?」

「自覚していないのか。兄の元婚約者はそんな家に嫁がずにすんだ。結果論にしか過ぎないが、今となっては良いことだったかもしれないぞ?想いを寄せたのはコルテオの兄だけで相手は渋々だったかもしれないからな」

「・・・そうなのでしょうか・・・」

「コルテオ様は悪くない。利用されただけですわ」

「話してよかった・・・なんだか気が軽くなった気がします」

「それでよい」

「えぇ、コルテオ様は、これから幸せになるんですよ?もちろん私とです。だから、他の女性の事はもう考えちゃだめですからね?」


人のいいコルテオの事だ。責任をとって自分が娶るなどと言いかねないと不安に思ったのだろう。胸にぎゅうぎゅうと押し付けるように腕を掴んでいる。上目使いで見てくるのは反則だとコルテオはたじたじだ。そしてその感触に気絶しそうになる。だが、クレイドルの一言で我に返った。


「エルサがこれだけ君を欲しがっている。さぁ、どうやってハッサル家に縁談を申し込んでやろうか」


クレイドルの瞳はどこか楽し気で、何かを企んでいるようにも見えた。





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...