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母親譲り
しおりを挟む婿殿候補はこの事を知っているのか。クレイドルのその言葉に場は静まり返る。
「お父様、結婚は絶対ですわ」
エルサはそう言うと、すくっと立ち上がる。コルテオは、あぁ、これからその男に話にでも行くのだろうなと落胆する。そんな事を考えながらうつむいていると、急に腕を引っ張られた。
「!?」
「コルテオ様、行きましょう!」
「えっ?・・・は、はい」
エルサがコルテオの手を引っ張りながら、二人は辺境伯の執務室を退出した。
「エルサの奴・・・ククッ」
「コルテオ様はまさか自分の事だなんて思ってもおられない様子でございましたね」
「まっくだ。コルテオ殿を随分と振り回しているな。不憫にも思えるが、コルテオ殿を相当気に入っているらしい。そのコルテオ殿もエルサに他に想い人がいるのかと勘違いしている。拗れてるな・・・」
「しかし、お嬢様らしくもありますな。辺境の後継者として、次期当主としてと志を持ってお育ちになられました。剣一筋で、恋愛の経験などないのでしょう。色恋の駆け引きを知る王都育ちのご令嬢とは違いますな」
「そう言った点では良い手本がいるんだったな」
「ベルモンド辺境伯御令嬢、いえ、アバンス小公爵夫人ですね」
「あぁ、きっと真似でもしているのだろう。違うのは、コルテオ殿はエルサに対して必死に食らいつく様子は見せていない。ましてやエルサがグイグイいく始末。なのに互いの気持ちを明かしてない、なんとも滑稽だ」
「誰にも靡くことのなかったお嬢様。案外白馬の王子様が現れると夢見がちな所もおありでした。だが白馬の王子様(白馬のブルーノに股がったウィルフレッド)には既に妻がいて、かわりに現れたのは純朴で清廉な青年でした」
「何がよかったのだろうな。見目でいうならマクシミリオン殿や、副騎士団長のソルディオの方がいいようだが?」
「男は見目ではない・・・ということでしょう。旦那様と奥様のように」
「そうかもしれんな。妻が見目で男を選ぶなら、俺は選ばれていなかったはずだ。そう言った点ではエルサはしっかりとナタリア譲りという事なのだろうな」
「えぇ、男を見る目に間違いはありませんよ。旦那様と奥様のように」
従者のジークはクレイドルの嬉しそうな表情ににこりと微笑んだ。これまで、生涯愛するのは妻一人と、再婚で後妻も娶らなかった。宝物だとエルサを大事にし、今も尚、クレイドルの心にはナタリアがいる。ナタリア見ていてくれ、この辺境は何処よりも幸せな領地だぞと言えるその日まで、クレイドルは走り続けるだろう。いつしかエルサに当主の座を明け渡すまで。それには拗れた二人の気持ちが通じあうことが最優先であろう。さぁ、どうなるか。クレイドルはフッと笑い、残りの執務に取りかかった。
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