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お腹がすいた

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呆然とエルサを見ていたコルテオだったが、次第に表情も柔らかくなっていく。少し苦笑いしながら切り出す。


「僕自身が可愛いとは思えませんが、エルサ嬢がそう言うのならそうなのかもしれませんね。それはそうと・・・ここにずっとお世話になりっぱなしもよくありません」


コルテオはそう言うと、ゆっくりと起き上がる。


「コルテオ様!安静が大事だと言われたではありませんか!まだ横になってませんと・・・」


心配そうな表情で慌てるエルサが可愛い。そんなことを思いながら、コルテオは話を続ける。


「幸い足はなんともありませんから自室には戻れます」


何でもないことのようにコルテオは笑顔を見せる。そしてもう一つ。


「お腹空いたんですよね・・・」


コルテオのその一言にエルサがハッとする。


「わかりましたわ!お部屋に戻って食事にいたしましょう。栄養のあるものを作って貰うように頼みませんとね」


コルテオはまさかこのやり取りが赤面する結果に繋がろうとは思ってもみなかった。


「早くあけてください」

「い、いやっ、自分で食べれますから!」

「コルテオ様はお怪我なされているのですよ?さぁ、はやく食べてください!」

「うっ・・・」


スプーンですくったスープをコルテオの口にグイグイと差し出しているエルサ。コルテオにとってはこれは仲睦まじい恋人たちがするあーんであって、エルサにとっては看病の一手なのだ。この攻防を見ている使用人達も暖かい眼差しを向けている。赤面しているコルテオは勘弁してくれと思いながらも嬉しくて仕方ない。甘んじて受け入れずにいるのは、エルサからの気持ちを何も聞いていないからだ。好きとは一言も言われていない。この行為は、そう、親鳥が雛鳥に給餌、はたまた餌付けでもされているような気分。しかしなかなか引かないエルサに、コルテオが折れた。


「あ・・・あーん」

「ふふっ、やっと食べてくださいましたね!はい、どうぞ!」


コルテオは差し出されるスプーンに口をあけながら、間近にあるキラキラした目をするエルサを眺めていた。少々赤みが引いてきたとは言え、さらにぼうっとしているコルテオの様子にエルサは更なる攻撃をする。


「コルテオ様?ぼうっとしてどうなされ・・・はっ!熱ですね!」


エルサはそう言うとコルテオの額に手をあてる。


「・・・っ!」

「熱はないようですね?まだ痛みが」


ドサッ


「えっ?コルテオ様ー!!」


寝台に倒れたコルテオに驚いたエルサが叫んだ。エルサの声に、部屋から退出していた使用人達が慌てて駆けつけると、おろおろして心配しているエルサがいる。コルテオに何かあったのかと様子を伺えば、どうにも緊迫した様子ではない。コルテオは赤面し、プルプル震えながら顔を両手で覆っていた。使用人達はエルサに大丈夫だと言い、微笑ましい目を向けていた。









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