騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

agapē【アガペー】

文字の大きさ
上 下
492 / 544

兄の婚約者

しおりを挟む


「結局婚約者の令嬢はどうなりましたの?」

「今は・・・兄の妻として伯爵夫人として実家にいます」

「・・・そうなのですか・・・」


エルサは疑問を持つ。では、お兄さんの婚約者だったご令嬢は?


「お兄さんの婚約者の方は・・・」

「兄とは・・・婚約解消になりました。どちらにも非のない事。婚約解消という話に。彼女は子爵家のご令嬢でした。ハッサル家の長男に捨てられた女とレッテルを貼られ、社交界での噂のまとになってしまったんです。彼女には大変申し訳ない事をした」

「その方は今はどうされているのです?」

「たまたまの偶然か、はたまた温情なのか・・・ウィルフレッドの家にいるんです」

「アバンス公爵家に?」

「はい・・・メイドとして仕えているそうです。それを知ったのは随分あとになってからでした。最近は夫人の世話係なんだそうです」

「夫人?アバンス公爵夫人?」

「いえ、レティシア夫人のほうですよ」

「そうなんですか・・・」

「偶然知ったんです。ウィルフレッドがあの有名な夜会で夫人を手に入れてから、すぐ屋敷に住まわせるようになった時、慣れない公爵家での暮らしに少しでも馴染めるようにと、歳の近いメイドをつけたそうで、それが彼女だったそうです」

「・・・伯爵夫人としての未来があったでしょうに・・・」

「えぇ、でも、ウィルフレッドから聞いた話では随分と夫人と仲が良いみたいで、焼きもちを妬くくらいなんだとか・・・」

「レティシア様らしいわ」


コルテオは、ふふっと笑うエルサの笑顔に釘付けになる。


「かつて愛した男を、義弟になるはずだった僕の婚約者にとられた。彼女の苦しみは・・・僕には救ってはあげられませんでした。アバンス家での生活が良いものになっただけでも感謝します」

「そうですね。無理矢理にでも結婚をとはやっていれば、歳のはなれた方に娶られたか、後妻など、そう幸せには思えない結婚になっていたかもしれません。それからしてみれば、彼女にとってはいい環境に身をおくことができたのは幸いだったかもしれませんね。彼女ご結婚は?」


「まだだと聞いています。ひとつ心残りとするならば、彼女の女性としての普通の幸せを奪ってしまった事・・・でしょうか」

「コルテオ様が自らの手でとは考えなかったのですか?」

「・・・それも考えはしましたが、僕はいずれ伯爵家を出て平民になるんです。そんな男の元に嫁いで幸せになれますか?本来なら伯爵夫人になる未来があった方なのに」

「幸せは人それぞれです。他人が決めるものではありません」


エルサのその言葉にハッとする。そうだ。万人が幸せだと感じることが、絶対に全ての人に当てはまるわけではない。目の前のエルサのように、剣を手に取る令嬢だっている。どこにだって、回りとは違う自分を持っている人はいるものだと。一回り近く歳の離れたエルサからそれを教わるとは、まだまだ未熟だなとコルテオは心の仲で反省していた。







★お知らせ★


新作投稿開始しました!


1/28START


『好きなのは貴方じゃない』





「お前の嫁ぎ先が決まった」

侯爵である父がそう言った。

スティファニアは、その時絶望で崩れ落ちそうになる。

想い描いていた未来はもう来ない。

諦めを抱いて辺境に来ると、使用人みんなが親切でとっても居心地がいい。だが、夫になった男爵にはひと目もかからないまま時間だけが過ぎていく。


「見ない顔だな、新入りか?」


夫は私ではない女を愛している。だから必死に心を保とうとした。


私が好きなのは貴方じゃない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

白い結婚のはずでしたが、王太子の愛人に嘲笑されたので隣国へ逃げたら、そちらの王子に大切にされました

ゆる
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

私はただのガチファンなのに、推しがグイグイきます

itoma
恋愛
商人から成り上がったシュレフタ子爵家の次女、モニカには推しがいる。それは皇室騎士団の団長、ラドミール・クリスト。無口でクールなイケメンだった。 前世で日本の男性アイドルを推していたモニカは、異世界に転生してからも推しから日々の活力を貰っていた。 ある日、モニカは意図せず推しに認知されてしまう。 ガチファンとして一定の距離を保ちたいのに、何故かグイグイ来るラドミール。 なんだかんだ一緒に過ごすうちに彼のプライベートや意外な一面を知ることになり、モニカは彼にどんどん惹かれていった。 ……もちろん、ファンとして。 ガチファンだからと一線を引く子爵令嬢と、その一線を超えたい騎士団長のお話。

ある辺境伯の後悔

だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。 父親似だが目元が妻によく似た長女と 目元は自分譲りだが母親似の長男。 愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。 愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...