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決意して語る過去
しおりを挟む当時の様子を思い出しながら苦し気に話すコルテオ。そんなコルテオを見ながらエルサは今にも駆け寄って手をとりたかった。でもこれは、最後まで聞いたほうがいい。いや、聞かなければならないと思った。
「どれくらいか覚えてませんが、街を歩くほどに、段々と人がまばらになっていくんです。いま思えば誘導されていたのでしょう。あの時は気付けなかった。どこか行きたい場所がそちらにあるのだろうと・・・僕は未熟でした」
コルテオは語りながら少しだけ体勢を変えた。寝返りともい言えないわずかばかりの動き。視点が変わったからだろう、視界の隅に自分をじっと見つめている赤が飛び込んできた。それは、心配そうに見つめるエルサのルビーのような赤い瞳。コルテオは驚きで目を見開く。
「っ!・・・エルサ嬢・・・」
心配で駆けつけてくれたことに対する喜び。心配をかけてしまった事に対する申し訳なさ。そして、恋い焦がれる相手の前で、他の女性の話をしてしまった事。いつからそこにいたのか、どこから聞かれていたのか。別に後ろめたい事はないが、どこか居心地が悪かった。
「コルテオ様、続き聞かせてください」
「し、しかし・・・」
「ずっとわだかまりとして抱えていらっしゃったのでしょう?話して全てが消えるわけではないでしょうが、少しでも気持ちが楽になるなら」
コルテオはエルサの瞳をじっと見つめて考える。ただ好きだと、恋い焦がれているだけでは、このままではいけないと言うこと。もし、何かの間違いが起きて、自分とエルサが婚約者、そして夫婦になる未来があるのなら、いずれ打ち明ける過去の話。彼女なら受け入れてくれる。そんな自信はあった。だが、打ち明ける勇気がなかった。彼女に落胆されるのが怖かったから。何に期待して怖がっていたのか。結ばれる未来を期待するから怖いんだと。全てを知った上で結ばれないのであれば、そこまでの話。自分はエルサには認められなかった男だと言うだけの事。だがコルテオは決意する。
「・・・街を歩いてしばらくすると、彼女の歩みが止まりました。不思議に思ってまわりを見ても、女性が興味を持ちそうな店はない。その上、そこは人がほとんど通らないような路地でした。彼女に危ないから通りに戻ろうと声をかけようとした時でした。建物の影から数人の男が出てきたんです。咄嗟に彼女が危ないと、守ろうと、彼女を背に間に割って入りました。男達は剣を雑に振り回し切りかかってきました。騎士として半年ほどしか経っていない僕は、いくら先輩達から誉められるような剣のセンスがあっても、経験が無さすぎたんです。数分ほど剣での攻防をした後・・・後ろから切りかかられた剣で、右肩を深く刺されました。咄嗟に彼女が無事か確認したくて振り返ったんです」
コルテオは、天井を仰ぎ見て拳をぐっと握っていた。
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『好きなのは貴方じゃない』
「お前の嫁ぎ先が決まった」
侯爵である父がそう言った。
スティファニアは、その時絶望で崩れ落ちそうになる。
想い描いていた未来はもう来ない。
諦めを抱いて辺境に来ると、使用人みんなが親切でとっても居心地がいい。だが、夫になった男爵にはひと目もかからないまま時間だけが過ぎていく。
「見ない顔だな、新入りか?」
夫は私ではない女を愛している。だから必死に心を保とうとした。
私が好きなのは貴方じゃない。
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