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築けなかった、気付けなかった
しおりを挟むエルサが救護室に入って来たのにも気付かず、コルテオは医師のドーランの言葉に過去を語りだした。
「この傷は・・・騎士としては致命的です」
「うむ、最近の怪我ではない事を考えると、随分と抱えてしまったものが大きいな」
「・・・僕は何か悪いことをしてしまったんでしょうかね・・・」
「話してくれるかい?」
コルテオはドーランの優しい言葉に過去を振り返りながら語りだした。
「僕は15歳で騎士団に入団しました。伯爵家の次男で継ぐ爵位もなく、文官か騎士になって身をたてるしかなかったんです。大きな事業でもしている家系ならば、兄の補佐をする将来もあったでしょうが、そういうのはありませんでしたしね。幸い身体を動かすのは好きでした。身体を動かしているときは何も考えなくて済むんです。兄は・・・自慢の兄でした。何でもそつなくこなして見せていつも完璧。両親はいつも兄を・・・兄だけを可愛がっていました。特別虐げられたわけでもなく、大きな差別を受けたわけでもありません。ですが、小さな事も、積み重なれば大きなものへと変わるんです。兄は学園で見初めた好きな令嬢を婚約者に迎えました。僕は・・・親から決められた同じ家格のご令嬢を婚約者にとあてがわれました。彼女が嫌とかそういうことはなく、それなりにいい関係を築けていたと思っていたんです」
「違った・・・という事かな?」
少しだけ表情の強ばるコルテオに気付き、ドーランは静かに問う。
「週に一度はお茶の時間を取っていたんです。大きく盛り上がることもなければ話し込むこともなく、ただただ穏やかな時間。静かでおしとやかな彼女との時間、結婚したら愛とか恋とかはなくても、こんな風に穏やかな時間が過ぎていくのだろうかなどと考えていました。騎士団に入って半年ほどたった頃でしょうか。珍しく彼女が街へ出掛けたいと言ったんです。僕にとって、はじめてのわがまま、はじめてのお誘いでした。デートという言葉が頭をチラつき浮かれていたんでしょうね。彼女の機微に気付かなかった」
コルテオは診察台に横になったまま、顔をしかめながら続きを話していった。
「お茶の時間を使って、その日は馬車に乗り、彼女と街に繰り出しました。女性を連れて街を歩くなんてはじめての事でしたからね・・・だけどそこで気付くべきだったんです。おかしいということに」
「何がおかしかったのかな?」
「目的地がないんです」
「目的地?」
「えぇ、カフェに入ってみたい、雑貨屋に行ってみたい、宝飾店に行きたいなど・・・何もないんですよ。ただただ街を歩いているだけ」
コルテオはシーツをぐっと握りしめて、その後の話を語っていった。
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