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主は誰だ
しおりを挟むコルテオはエルサの案内で、一通り砦や周辺を見て回った。今は、砦に視察で訪れる王族や貴族の滞在に使用される部屋へと入る。
「ここだけは緊迫した国境だとは忘れてしまうような雰囲気ですね」
「えぇ、ここは視察で来られる王族や貴族の方々が滞在で使用される部屋ですから。彼等は最前線に立つわけではありませんし、長期で滞在するわけでもありませんしね」
コルテオはぐるりと部屋を見渡す。
「コルテオ様、本日はこちらのお部屋に滞在して頂きますわ」
「え?僕がですか?」
「はい、屋敷には明日帰ろうと思います。砦付近は隣国との関係により危険もありますが、日が暮れると野犬なども出ますから」
「ですが、僕がこの部屋を使う理由にはならないでしょう?」
「逆に使ってはいけない理由もないでしょう?」
そう言われてしまえば断る術もない。
「わ、わかりました」
「コルテオ様、私、フィーノに食事を与えてきますわ」
「え、じゃあ、僕も一緒に」
「そうしていただけるとフィーノも喜びますわ」
二人は陽が傾きかけた空の下、厩舎へと出向いた。フィーノは二人が近付いて来るのに気付き、嬉しそうに尻尾を振る。早く撫でて欲しいのか、お腹がすいているのか、そんな様子のフィーノを見て、二人とも表情が緩む。だが、フィーノの様子が急変する。視線はこっちを向いているようだが、視線が合わない。おかしいと気付いたコルテオはゆっくりと後ろを振り返る。
「エルサ嬢!」
コルテオが叫んだかと思えば、その腕に抱きすくめられていた。
「コ、コルテオ様?」
「あなたは誰です?」
「は?」
何を言い始めたのだろうと思った。だがその問いかけが自分にではない事に気付く。
「そのご令嬢をこちらに渡してもらおうか」
「渡すはずがないだろう。こちらの問いに答えろ。あなたは一体何の目的でエルサ嬢に害なそうとしている」
「害?危害なんか加えたら俺の首が飛んじまうな。傷ひとつつけずに連れ帰れと仰せだからな」
こちらの問いに答えもせず、黒ずくめの男がニヤリと笑いながら言う。
「そうか・・・主はソハナスの人間だな?」
「まぁ、そうだろうな。あんたより、そこのご令嬢の方がよく知ってるんじゃないか?」
そう言いながらこちらを見てくる男に、エルサは心底嫌そうな顔をする。
「エルサ嬢?」
コルテオはどういう事だと、どさくさに紛れて抱き締めていたエルサの顔を心配そうに覗き込む。
「・・・ダリオ殿下ですね」
「あぁ、そうだ。国境の向こうから、男と二人で馬に相乗りしていたあんたを見て、随分とご立腹さ。俺のエルサが男とイチャついている。今すぐ拐ってこいとな」
「いつあの男のものになったのよ。私は誰のものでもないわ」
「素直に頷けばいいものを」
男はそう言うと腰にかけていた剣に手をかけた。すっと向けられた剣がキラリと光を反射していた。
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