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呆れ、お誘い
しおりを挟むそれからと言うもの、コルテオは余計に研究に実験にとのめり込んでいく。食事もとらず部屋から出てこないこともしばしば。そんなコルテオの事を、使用人達も最初は噂をしていたが段々と風化していく。そう、忘れられていくように、存在事態が薄く話題にさえあがらなくなっていった。
「・・・ん・・・」
コルテオは仮眠をとっていたソファの上で身じろぎする。
「・・・もうこんなに明るくなってる・・・朝か?・・・いや、昼か」
起き上がることもせずぼーっと窓の外に見える空を眺めていた。
ヒヒンッ、ブルルッ
遠くに小さく馬の嘶く声が聞こえる。もしかするとフィーノを散歩させているエルサかもしれない。そう思い、ゆっくりと身体を起こす。窓の外を見渡すと、今日もまばゆいばかりに生き生きとフィーノを走らせるエルサがいた。
「今日も可愛らしい・・・」
じっとエルサを見つめていると、方向転換しこちらを向いたエルサと目が合う。エルサはコルテオに気付き、フィーノを部屋の近くに向かって歩かせる。
「コルテオ様、しばらくぶりにお顔を拝見した気がしますわ」
「あぁ・・・引きこもっているようなものですからね」
コルテオは自嘲しながら答えた。
「コルテオ様、顔色が悪いですね」
「ん?そうですか?」
「えぇ、ちゃんと睡眠はとられてますの?」
「え、えぇ、今しがた目が覚めたばかりですよ」
「そうですか・・・では、お食事は?きちんととられてますか?」
「え・・・えぇ・・・」
「とっていないようですわね」
呆れたような表情と物言いのエルサにコルテオは気まずくなりそっぽを向く。
「はぁ・・・ダメですわよ?私、これから朝食をとろうと思ってましたの。一緒にいかがです?」
「え?い、一緒に・・・」
その言葉がまだうまく飲み込めず、ボソッと呟くように反芻する。
「着替えたら食堂においでください?私も着替えて参りますから」
では後でとエルサは再びフィーノの歩を進めていった。
「一緒に朝食を・・・」
まだ信じられないと言った様子のコルテオは、ゆっくりと手を顔に近付け自身の頬を名一杯つねってみる。
「い、いだだだだっ!!!」
涙目になりながら自身の頬をさする。
「夢・・・じゃないのか・・・」
そう呟いた途端、一気に現実なのだと引き戻される。
「こうしちゃいられない!」
コルテオは勢いよく立ち上がると、慌てて研究室から飛び出し自身の部屋へと駆け込んだ。廊下に居合わせた掃除中のメイド達が何事かと目を見開いて驚いていた。引きこもりの次は奇行かとコルテオがまた話題にあがり始める。そう、もちろんよくない意味で。
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