467 / 544
抗えないもの
しおりを挟むレイバンに押しきられ、レイラは抱えられたまま自室へと連れてこられた。過度の緊張のあまり、先程は馬に乗せられたままレイバンに身体を預けたまま眠ってしまっていた。それを思い出すだけで顔に熱が集まってくる。今の自分は真っ赤になっているだろう。野盗に犯されそうになっていた時とは違う緊張感。レイラがそんな事を考えているとは思いもせず、レイバンはレイラを抱えたまま、器用にドアを開ける。遠慮なくズンズンと部屋を進み、レイラを寝台へと静かに下ろした。
「レイラ、しっかり休め。身体が強張っている。あぁ・・・湯浴みするか?そうだな・・・ここにはメイドはいないし・・・年長の女の子でも連れてくる」
「あ、いいえ!大丈夫です。自分でできますから」
「そうか?・・・じゃあ・・・しっかりあたたまって、今日はこのまま休んでろ」
「は、はい・・・お手を煩わせまして・・・」
「気にするな。お前は子ども達を守ろうと必死だった。それだけだろう?」
「・・・は、はい・・・」
「イズヴァンドの民を救ってくれてありがとうな」
レイバンはそう言うと、方向を変え、部屋から出ていった。思い返せば軽率な行動だったかもしれない。子ども達に危害を加えられるかもしれないなら、自分がと、咄嗟に駆け出して盾になった。その結果このザマだ。だが、レイバンはそれに対して怒るでもなく、呆れるでもなく、ただただ礼を言った。レイラはそれが嬉しかった。自分でもレイバンの役にたったかもしれないと。とりあえず今は考えを切り替え、湯浴みすることにした。あの男達が触れた感触が今でも肌に残っているようで気持ち悪い。水で全てが洗い流れてくれればいいが、こればかりはそうもいかなさそうだ。きれいさっぱり記憶ごと流れてくれてもいいのになどと考えていた。湯浴みから出ると、途端に眠気が襲った。こんな時に眠気だなんて、自身に呆れてくる。だが、どう抗っても眠気には勝てなかった。レイラは寝台に横たわると、掛布もかけないまま眠りについてしまった。
「・・・レイラ?・・・湯浴みはしたようだが・・・眠ってしまったんだな」
様子を見に来たレイバンが、寝台で眠ってしまったレイラを見つけ、掛布をかける。
「俺が・・・いや、お前は幸せになるんだ。それまでは、俺がついててやるからな」
レイバンはぼそっとそう言うと、レイラの寝顔を目に焼き付けるように見つめ、しばらくすると部屋から出ていった。
1
お気に入りに追加
332
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】100日後に処刑されるイグワーナ(悪役令嬢)は抜け毛スキルで無双する
みねバイヤーン
恋愛
せっかく悪役令嬢に転生したのに、もう断罪イベント終わって、牢屋にぶち込まれてるんですけどー。これは100日後に処刑されるイグワーナが、抜け毛操りスキルを使って無双し、自分を陥れた第一王子と聖女の妹をざまぁする、そんな物語。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる