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眠れなかった夜

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二人はぎこちない会話をしていた。


「レイバン様、こちらのお部屋を」


レイラが案内したのは、孤児院の二階にある一番奥の部屋。


「懐かしいな・・・」

「えぇ、ずっとそのままにしてありましたから」


レイラが案内したのは、レイバンが幼少期を過ごした部屋だった。レイバンが孤児院を去った後も、他の部屋には孤児達が受け入れられていたが、この部屋だけはあの時のまま。清掃だけは欠かさず行われていたが、誰にも使われずひっそりと主を待ち続けていた。


「レイバン様がこの孤児院を出ていかれた後も、神父様によって部屋はずっと管理されておりました。誰にも使われることないまま20年、この部屋は、レイバン様の帰りを待っていました」


レイバンは静かに一歩、一歩と前に進む。部屋の中央で足を止めると、一点をじっと見つめていた。


「どうかされましたか?」

「・・・夜眠るのが怖かった」


レイラはポツリとこぼしたレイバンの言葉に、幼い頃はレイバンにも怖いものがあったのだなと思っていた。だが、次の言葉で考えを改めることになる。


「・・・悪夢を見ていた。未だに夜眠る時に思い出すし、飛び起きることもある。両親の最期が脳裏に焼き付いて離れない。だから朝が待ち遠しかった。みんなの声が、音が、風景が・・・夢だったんだと安心させてくれていた」


レイバンが見ていたもの。それは部屋に鎮座する寝台。眠れなかったというレイバンの表情はどこか苦しげな表情だ。レイラは、楽観的に見ていた自分を責めた。


「申し訳ありません」

「何がだ?なんで謝る?」


レイバンは振り向き問うた。


「・・・レイバン様のお心を全く理解していなかった私が恥ずかしいです」

「・・・気にする事はない」


二人の間に沈黙が流れる。先に沈黙を破ったのはレイバンだった。


「・・・レイラは・・・」


それだけ言うとレイバンは黙ってしまう。


「はい、なんでしょうか?」

「いや、なんでもない」


何を聞こうとしたのか。口をつぐんでしまったレイバン。レイラは、表情から読み取ろうとするも、レイバンはそっぽを向いてしまい、表情を伺う事はできなかった。







【レイバンside】


危ない・・・

俺は一体何を

レイラに好きな人がいるかどうかなど聞いてどうすると言うんだ

もしいると言われれば、この淡い気持ちは簡単に崩れ去るだろうな

レイラ・・・

手を伸ばせば届くほど近くにいるのに

随分と遠く感じるな・・・




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