上 下
446 / 543

それぞれの想い

しおりを挟む


「今日も元気に追いかけっこかい?」


「えぇ、断られようが邪険にされようが構わないみたいです。ずっとあの調子ですね」

「へぇ・・・」


騎士の稽古場にいるエルサを追いかけ、マクシミリオンが絶えず好意を寄せている事を伝えている。それを副騎士団長であるソルディオが何度となく睨みつけ牽制をする繰り返しの毎日だ。コルテオは静かに稽古場を眺めていたレイバンに声をかけた。


「恋は盲目とは言うが、随分な変わり様だね」


コルテオは呆れ半分、羨ましさ半分、マクシミリオンを眺めていた。


「いっそ受け入れればいいのにな」


後ろから低く心地の良い声がした。


「辺境伯殿・・・」


コルテオとレイバンの振り向いた先にクレイドルがいた。クレイドルは、仕方の無い奴らだなとばかりに、呆れながらその光景を見ていた。


「結局のところ、エルサが引き起こしている事態だ。マクシミリオンを手酷く振るわけでもなく、他の者からの好意も受け入れない。いずれかは結婚し、子を成す事は理解していても、最後の決定打に欠ける。そんな状況なんだろうと思う。辺境伯として、本来ならば後継者となるエルサに婿入りする相手を、幼い頃より決めていなければならなかったのだろうが・・・俺自身もそう、乗り気にはなれなかったんだ。結局俺も、エルサを誰かに取られたくはなかったんだろう。愛した女が唯一残した宝だ。誰でも良いわけではない。見目や地位ではない。譲れないところは母親に似たんだろうな。エルサに結婚を急かすつもりないが・・・いつまでもこのままというわけにはいかない」


クレイドルは少しだけ寂しそうな表情を覗かせた。


「後はご令嬢次第という事ですね?」

「あぁ、全てとはいかないが、エルサが納得する相手でないとダメだろう」

「きっとおりますよ」


どれだけ恋焦がれようとも、エルサが求める相手でなければいけない。コルテオの心にズシリと重い何かがのしかかった。エルサが何を求めているのか。最後の決定打は何なのか。父である辺境伯が分からずいる最後の砦。自分自身がわかるはずもなく、エルサはどんな男を選ぶのだろうか。マクシミリオンに追いかけられ、邪険に扱うエルサを眺めながらそう考えていた。その横でレイバンも何かを考えているようで、じっとある方向を見つめていた。一抹の望みをかけ、イズヴァンドがあるであろう方角を。イズヴァンドへ移るその日を明日に控えて。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

あの……殿下。私って、確か女避けのための婚約者でしたよね?

待鳥園子
恋愛
幼馴染みで従兄弟の王太子から、女避けのための婚約者になって欲しいと頼まれていた令嬢。いよいよ自分の婚期を逃してしまうと焦り、そろそろ婚約解消したいと申し込む。 女避け要員だったはずなのにつれない王太子をずっと一途に好きな伯爵令嬢と、色々と我慢しすぎて良くわからなくなっている王太子のもだもだした恋愛事情。

処理中です...