騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

騎士ではない女性は

夕刻、陽も傾き空が茜に染まる頃、三人とソルディオが乗った馬車が北の辺境地へと到着した。この距離、ウィルフレッドとレティシアより時間がかかったのは馬と馬車の違いだろう。三人はソルディオに案内され、辺境領の敷地内を進んでいく。途中で騎士団の稽古場が見えた。本日の稽古を切り上げた騎士達が片付けやら談笑をしているのが見える。コルテオとレイバンは真剣な表情で見ていた。


「流石ですね・・・辺境の騎士達はしっかりと鍛えられている」

「えぇ・・・闘うための・・・騎士ですね」


コルテオとレイバンは、王都の騎士達とは違った迫力に、クレイドルの指揮下でしっかりと鍛えられた騎士達を眺めていた。


「団長、もとい、辺境伯様がしっかりと鍛えておいでですからね。私も若いころは随分と鍛えられたものです」

「今は違うのですか？」


コルテオはおやっ？と言った表情だ。


「今は立場上稽古をつける側ですからね。流石にクレイドル様も、私に稽古をつけて潰してしまっては、他の騎士達の稽古に支障がでるとお思いなんでしょう。体力や精神力は並外れたものをお持ちですが、流石に全ての騎士達に稽古をつけ、育て上げることは不可能でしょうから」


ソルディオは苦笑する。そして一人だけ違う方向を見ている者がいた。


「女性の騎士もいるんだな」


ソルディオはマクシミリオンの声に反応し、向き直る。辺境領の騎士団には女性の騎士はいない。いるとするならば。


「あぁ・・・あの方は騎士ではありません。辺境伯様のご令嬢です」

「令嬢？辺境伯令嬢なのか？」

「えぇ、エルサ様です」

「へぇ・・・辺境は令嬢も剣を握るのか・・・」

「いえ、エルサ様は特別だと思いますよ？」

「・・・だろうな。レティシア嬢、いや、アバンス団長夫人や夫人の姉であるマリーリア嬢も剣を握っている姿は見たことがないな」

「それが普通でしょう。クレイドル様は、エルサ様に剣など握らずともよいと言ったことがあると言っておられましたが、エルサ様ご自身が、辺境伯家の人間として、女だろうが剣を握らないという選択肢はないとおっしゃられたそうなんです」

「ふぅん・・・随分と勝気な女なんだな・・・」


マクシミリオンは意味がわからないとばかりに首を傾げる。だが、この言葉と態度に、ソルディオはエルサが馬鹿にされたようでイラつきを覚えていた。


「別にご理解頂けなくともよいですよ。エルサお嬢様の努力とすばらしさはわかる者がわかればいいのですから。万人に理解して頂こうとは思いません。なんなら、万人に知れ渡る前に隠しておきたいくらいなんですから」


マクシミリオンに対し、捲し立てるように早口で話していたソルディオ。言い終わって、はっと気付き咳払いをする。


「ゴホン・・・すみません、失礼しました」

「い、いや・・・構わない」


ソルディオの気迫に押され、マクシミリオンは一歩だけ後ずさっていた。