432 / 543
お馴染みの光景
しおりを挟む「はぁ、毎日砂糖が降ってきているようですよ」
そう言いながら近衛の団長執務室でコービー片手に語るのは宰相だ。普段は甘い物に目がない宰相がブラックのしかも、苦いコーヒーが手放せないのだと言う。
「その姿はすっかりお馴染みだね」
向かいで笑うのは第二王子であるアルバートだ。このところ、宰相はコーヒー片手に、アルバートは書類片手に団長執務室に訪れる。すっかりお馴染みの光景となっていた。
「殿下、笑い事ではないのですよ。確かに一緒に住むことの提案に賛同し、許可はしましたが・・・あそこまで二人のイチャイチャを大っぴらに見せられるとは思いませんでしたよ。まぁ、イチャイチャというよりも、アイオロス君が娘を愛で翻弄しているだけにすぎませんが・・・」
「いい事じゃないか。いい婿殿も見つかった、ミリア嬢は長年の片想いが叶った。アイオロスだって、好きな相手と一緒にいれてこの上ない幸せだと言っているそうじゃないか」
「でも、まさか、アイオロス君があんなに積極的な性格だとは知りませんでしたし、人前でしかも、娘の親である私の前でイチャイチャするのですよ?」
「宰相、それは娘が幸せになれるんだと目を瞑るしかないね」
ククっと喉を鳴らすように笑うアルバート。その二人の様子を横で見ていたウィルフレッドも、自身も同じ事をしていて、両親も居た堪れない気持ちになっているのだろうかなどと考えていた。だが、違うだろうなと思う。アバンス家は家族総出でレティシアの取り合いなのだから、イチャイチャするのは通常運転だ。なんなら、両親が今だに子の前でイチャイチャするのだから。うちにはない悩みだなと結論づけた。
「失礼します」
そこへ午前の騎士達への稽古をつけ終えたアイオロスが執務室にやってきた。
「稽古はつけ終えたのか?」
「はい、合同の稽古は一旦終了としました。午後からは各自鍛錬に励むよう言い付けております」
「そうか」
簡単な申し送りを済ませると、これまであーでもないこーでもないと言っていた宰相と、それをおもしろがって聞いていたアルバートが立ち上がる。
「ウィルフレッド、アイオロス。これからまた引き継ぎと教育の時間だろう?僕達はお暇するよ」
「失礼します」
二人は執務室から出て行った。
「団長、最近、あのお二人は毎日のようにここに来られていますね」
「そうだな」
「何か陛下やヴィンセント殿下に聞かれるとまずいお話でも?」
「そうではないんだが・・・」
ウィルフレッドは苦笑いしていた。二人が毎日のように同じ時間にやってきては、騎士達に稽古をつけ終わったアイオロスが来ると二人揃って執務室を後にする。その原因が他でもない、目の前のアイオロスとは言えずに苦笑するしかなかった。アイオロスにとっては、望んではいけない相手と、鼻から諦めていた相手と婚約者になり、あまつさえ一緒に住み始めたのだ。毎日愛しい相手の顔を見れるなど、この上ない幸せだというアイオロスの言葉は、ウィルフレッドも同感できる。だからこそ、やめろとは言えず、宰相も気の毒にと思うにとどめていた。
1
お気に入りに追加
334
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。
伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。
しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。
当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。
……本当に好きな人を、諦めてまで。
幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。
そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。
このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。
夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。
愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。
鯖
恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。
パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる