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抗議と想像と

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「どうして止めてくれなかったのよぉ!」


レティシアの目の前でキーキー騒いでいるのは宰相の娘、ミリアである。アバンス公爵家にレティシアを訪ねてきていた。前日の王城での話。屋敷に戻ったミリアが暗い、そして寂しいという宰相の話に、国王が提案をした。アイオロスを伯爵邸に住まわせれば解決するのではないか。それを聞いて、驚きはしたものの、まぁ、近い将来遅かれ早かれそうなるのだから、別に構わないのかと宰相も納得した。というより、目の前に前例がいるのだ、今さらという話である。娘の婚約者となった騎士が伯爵家の婿として申し分ない男であり、なおかつ娘がこれほどまでに惚れ込んでいるのだから、何の問題があるのだろうかという思考になったわけだ。そして結局の所、宰相自身も、やっとの思いで捕まえた婿候補をみすみす逃すわけにはいかないのであって、なら、住まわせて囲ってしまえばいいのだと思った。


「あら、止める必要なんてあったかしら?」

「だ、だって、アース様が毎日同じ屋敷にいるのよ!?」

「いいじゃない」

「よ、よくないわよぉ!」

「どうして?」

「・・・は、恥ずかしいし・・・」

「そんなのすぐに慣れるわよ。それに結婚したら毎日そうなのよ?今でも後でも変わらないじゃない」

「うっ・・・」

「それに考えてもみて?毎日好きな相手に会えるのよ?会えない時間に何をしているのだろうかとか、誰と会ってどんな話をして、どんな表情を見せているのかしらなんて、考える事もなくなるわ。だって、その相手は目の前にいて、自分と一緒にいるし、今している会話全てで、その表情は全て自分に向けられているの」


諭すようなレティシアの言葉にミリアはぼうっと考える。


「今は会えない時間がただただ寂しいと思うかもしれないけれど、一緒にいることで、私の元に帰ってきてくれるんだという安心感と嬉しさがあるの。きっとミリアも嬉しいはずよ?」

「そうなのかしら・・・そうよね・・・毎日屋敷にアース様が・・・」


そう呟いているミリアの頬は若干赤くなっている。頬が緩みそうになったのか、物理的に抑えたくて両手で頬に触れた。これからの毎日に変化が訪れることが不安だった気持ちもどこへやら。今は、毎日アイオロスに会える、毎日おはようを言っておやすみを言い、そしてまた同じように朝を迎える。そんな想像をしていた。幸せに浸っていたのも束の間。急に横から両腕ごと、ぎゅぅっと苦しいほどに抱きしめられた。


「ひゃぁぅっ!・・・ア、アース様!?」


椅子に座っていたミリアの横で床に片膝をつき、抱きついたアイオロスが見上げてくる。


「ミリア!喜んでくれるのですか?俺が伯爵邸に住むこと!」

「・・・え、えぇ・・・う、嬉しいです」

「ミリア!俺も嬉しいです。毎日ミリアの顔を見れるんです。この上ない幸せです!あぁ、屋敷にいるミリアは外出する時とはまた違った表情を見せるんでしょうね・・・」

「へっ・・・?」

「え?だって、屋敷だと言うことは、生活の場ですよ?外出用ではないドレスも着るし、普段着のミリアも見れますよね?それに眠る前ならミリアはドレスではなく夜着では?・・・そうだ・・・寝顔も可愛いんでしょうね・・・」


もう、アイオロスのミリアに対する愛がダダ漏れ、猫可愛がりが始まってしまった。レティシアも苦笑い。まさかアイオロスがここまで素直に恋愛感情を面に出す男だとは思わなかったからだ。ただただミリアはアイオロスの腕の中で赤面するしかなかった。



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