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待っている者達
しおりを挟む「何が残念なの?」
レティシアはわかっているがわからないフリをして訊ねる。ウィルフレッドはにこりと笑うだけ。
「何でもないさ」
ウィルフレッドは、見上げてくるレティシアを見つめ返すと、フッと表情が緩んだ。秘密とでも言いたいのねと、レティシアは再度三人の方に向き直る。相変わらずウィルフレッドはレティシアに抱きついたまま。
「乗っ取るとは物騒な言葉使いかもしれませんが、あちらの民を想っての事です。一刻も早く悪政から救いたい。ですから、皆様の知恵と力を貸して頂きたいのです」
そう言ったレティシアの表情は真剣だった。
「わかりました」
そう答えたのはマクシミリオンだ。マクシミリオンも他の二人も、真剣な表情を見せ頷いた。
「レイバン様」
レティシアは再度レイバンに声をかけた。
「結婚式が挙げれず、私達は、皆とは違う夫婦として歩み始めました。ですが、悪い事ばかりではなかったのですよ?」
レティシアはにこっと笑うと話を続ける。
「ウィルが貰った十日間の休暇を利用して、遠出をしてきたんです。西の辺境、北の辺境・・・その間にイズヴァンドも」
その言葉を聞いて、レイバンがピクリと反応を見せる。
「荒れていました。人など住んでいないと思うほどに。ですが、いたんです。人が」
レイバンはレティシアの言葉の続きを待った。誰がとも、何がとも言っていないが、何故か期待してしまう。己が何に期待しているのか、この感情が何なのかだわからず。
「確認できたのは数名でした。彼らは小さな教会とそこに併設する孤児院の者たちです」
レイバンの瞳は、微かに動揺を見せる。もしかして・・・もしかするとと、期待せずにはいられなかった。だが、復讐の為に領地を捨てた自分に向けられる感情は、決していいものではないだろう。それでも期待せずにはいられなかった。
「・・・数名とは・・・誰でしょう」
「まずは教会の神父様。それから・・・一人シスターがいたわ」
「そう・・・ですか」
「それから大きな子から小さな子まで、いろんな事情を抱えた子どもたちが何人か」
レイバンはそれ以上聞く事はできなかった。本当は聞きたい。聞いて・・・確認したい。
「レイバン様、あなたは一人じゃない。あなたを待ってる女、それから家族がいるわ」
「家族・・・」
「会ってみればわかるわ。あなたは知らなかったかもしれない。でもあなたの事を案じていたたった一人の家族がいる。あなたの無事を祈って待っている女もいる。彼等の為にも、何が何でも尽力して彼の地を豊かにしてあげてください。それができるのは他でもないレイバン様です。他の誰でもいけないのです。土地がどれだけ豊かになろうとも、彼等の渇望は・・・他の誰かでは満たされません」
レティシアの言葉に、レイバンの瞳からは静かに涙が流れ落ちた。他の誰でもなく自分を待ってくれている人がいる。レイバンは、覚悟と目標ができた。彼の地を笑顔が溢れる地にしたい。レイバンは心のなかで静かに決心した。そして嗚咽混じりに答える。
「・・・は・・・いっ・・・」
精一杯の返事だった。
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