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嫌われてしまえばいい

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「ウィルフレッドよ、心配せずとも夫人はお前のものだ。流石に引き離そうなどとは思っておらん。そんな事をすれば夫人から私が嫌われてしまうからな」


国王は尚もレティシアの膝に頭を乗せて甘えていたウィルフレッドに声をかけた。


「嫌われてしまえばいい・・・」


レティシアの膝に頭を乗せてそっぽを向いたまま、ウィルフレッドはボソッとつぶやくようにそう言った。


「何か言ったか?」

「いいえ」


ウィルフレッドが発した言葉は、国王には聞き取れなかったようだ。とにかくレティシアを独り占めしていたい。だが、周りが許してはくれない。ならばいっその事こと、相手が嫌われてしまえばレティシアが相手をすることもないだろうと思っての事だった。しばらくすると深いため息をつき、ウィルフレッドはゆっくりと顔を上げる。そしてレティシアの顔をじっと見つめる。


「何?」

「いいや」


ウィルフレッドはフルフルと首を振るとすっと立ち上がり、姿勢を正した。


「陛下、三人の出立の準備が出来ました」

「そうか、その一言を言うまでに随分と時間がかかったな」


会話の内容を勘違いし、嫉妬し、国王の目の前だと言うのに甘え通しでレティシアの膝から離れなかったウィルフレッド。その様子を国王はニヤリと笑みを浮かべながら揶揄うように言う。


「・・・お見苦しいところをお見せしました」

「甘えるのはそんなにいいものなのか?」

「・・・えぇ、私だけに許された特権ですからね」

「そうか・・・」


顎に手を当てて何か考える様子を見せた国王レオナルド。口を開きかけたその時だった。


「他でお願いしますね」


何をだと言いたかったが、ウィルフレッドの目は本気で牽制をしていた。公爵である父、ディアルドもレティシアをお膝に乗せてみたいなどと言う。今度は国王がレティシアに甘えてみたいと言い出すのではないかと気が気ではなかった。


「流石にそれはない」


これには国王も苦笑いするしかなかった。しかしウィルフレッドにとってはなによりも重要な事である。レティシア信者を増やさないようにしなければ、自分との時間がこれ以上減ってしまうのはウィルフレッドにとっては死活問題とでも言えるほど大事な事だった。それに今すぐにとは言わないが、もっと強大な敵がいる。ソハナスの国王である。未だに若い令嬢や街娘などを城に呼び寄せているのだと言うのだから、欲しがっていた王女そっくりの娘であれば当然欲しがるだろう。この銀の髪とアメジストのような紫の瞳は、知る者が見れば生き写しのようにそっくりだと言うのだから。心配しなくてもいいと言われても、安心などできるはずもなかった。






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