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国王は羨ましい
しおりを挟むマクシミリオン、レイバン、コルテオの三人が北の辺境へと出立する日。見送りの時間までレティシアは国王レオナルドとお茶の時間をとっていた。特に話すことがあったというわけではなないが、こうでもしないと、ウィルフレッドが四六時中離れない状況になりそうだった。昨日屋敷に帰ってきたウィルフレッドは様子がおかしかった。何がと聞かれれば何を答えることはできないが、しばらく落ち着いていた甘えや嫉妬が大爆発したかのように再発しているのだ。出掛けに何だかんだと攻防をし、国王と茶をするという所に落ち着いた。そうでもしないと、ずっと一緒にいると言い出し、職務どころではなくなってしまう。
「しかし、ウィルフレッドのどこが子どもなんだ?」
「どう見たって子どもですわ」
「そうか?あいつは冷静沈着でしっかり者の印象しかないが・・・いや、レティシアと一緒になってから、よく感情をあらわすようにはなったな」
「えぇ、感情を抑え切れずに、小さな子どものように甘えたり拗ねたり、忙しいものです」
「そんなにか?」
「そんなにです」
レティシアはにっこりと笑うと、メイドから差し出された湯気の立つお茶をゆっくりとすする。
「本日陛下の所に行くと言ったのも、ウィルが離してくれなさそうだったからなんです。昨日、昼間の間に何があったのか知りませんが、屋敷に戻ってきたウィルは、何か思い詰めたような、焦っているような、とにかく様子がおかしかったのです。なんとか宥めましたが、何があったのかは言いませんし、昨日からずっと小さな子どものように、拗ねたり泣いたり、行動と感情が伴っていないような状態です。今朝も王城に出仕するのに随分時間がかかりましたし、駄々を捏ねて大変でした」
苦笑するレティシアを国王はぼんやりと見つめていた。どんなに醜態を晒そうとも、どんなに面倒な男に成り下がろうとも、目の前の美しい女は夫の全てを受け入れている。好きな相手に愛されるのは本当に幸せなのだろうと羨ましくて仕方がなかった。
「私がもし、ソハナスの王女との縁談を断らず受け入れていたら、幸せな未来が待っていただろうか?」
「・・・それはどうでしょうね。少なくとも私はこの世に生を受けておりませんでした。それはそうと、クリスティア様を愛しておられた陛下がそう簡単に他の方を愛せましたか?」
「・・・そうだな・・・すぐにとはいかなかったかもしれないな」
「そうでしょう。陛下、もしもはないのです。母は短い生涯でしたが、父に愛され、父を愛し、そして私達姉妹を愛してくれていました。それはいつも父が話してくれますわ。私が幼い頃に母は儚くなってしまいましたから、詳しいことは覚えていませんが、父の中での母はとても幸せそうなのです。ですから、私は、母が父と夫婦になれてよかったと思っています」
にっこりと笑うレティシア。国王は、あの時縁談を断らなければ、こんないい娘がいたのかとあの時の自身に教えてやりたいと思った事は秘密だ。
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