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夢なのか現実なのか
しおりを挟むアイオロスの意外な一面を知り、この人も人並みに欲があったのだななどと考えていたミリア。後ろから抱きしめられたままの体勢から中々離して貰えずにいた。
「あ、あの・・・」
「何ですか?」
「そろそろ離して貰えませんか?」
「うーん・・・嫌です」
「い、嫌って・・・」
「今、離したら二度と捕まえることさえできなくなってしまいそうで・・・」
すぐ後ろから聞こえるアイオロスの声は不安に包まれていた。押し問答をしているうちにすっかり忘れていたが、ミリアの気持ちをまだきちんと伝えていない。意を決して口を開く。
「あの・・・好きです」
「・・・へっ?」
アイオロスは耳を疑った。理解するのに少し時間がかかり、反応が遅れてしまった。
「・・・」
「・・・」
固まってしまったアイオロスに、ミリアもどうしていいかわからないまま、静かに時間が過ぎていく。数分も経っただろうか、いや、実際のところ数秒だろう。アイオロスの抱きしめる手に力が入ったのがわかった。
「あ、あの・・・」
「俺、ミリア嬢を抱きしめたまま眠ってしまったんだろうか・・・」
アイオロスが後ろでボソボソと話している。
「いえ、起きてらっしゃいますが・・・」
アイオロスは一体何を言い始めたのだろうかとミリアは困惑した。
「夢の中だからミリア嬢は俺が返して欲しい言葉を紡ぐし、表情を見せてくれる。ぬくもりがあって・・・ぬくもり?・・・夢じゃない?」
そう口にした途端、アイオロスはハッとする。夢でも見ていて、自分の都合のいいようにミリアが返事をしてくれているのかと。だが夢でもなく妄想でもなく現実なのだ。
「俺、ミリア嬢を抱きしめて・・・いる・・・」
「え、えぇ・・・そう、ですね」
「・・・本・・・物・・・」
「嘘をつく理由もありませんわ」
次第に実感が湧いてきたらしい。アイオロスはミリアを抱きしめていた手をそろそろっと離していった。急に離す気になったのかと後ろを振り返ると、真っ赤に染まった顔でアイオロスは固まっていた。
「あの・・・アイオロス様?」
「も、も、も、申し訳ない事を!」
「・・・」
先ほどまでの大胆なアイオロスはどこへ行ってしまったのだろう。アイオロスの身体が離れた事にミリアは寂しいと感じてしまった。
「離したくないとおっしゃっていたのにそんなに簡単に離れるのですね」
ミリアは少しだけ意地悪な言い方になってしまったと内心ヒヤヒヤしていた。
「・・・やっぱり好きです・・・諦めきれません」
「諦めてもらっては困ります。夫になりたいとおっしゃってたのは嘘だったのですか?」
「嘘なわけないでしょう!・・・でも自信はありません」
「それは私も同じですわ。二人で一緒に幸せになれるように努力しましょう?そうすれば、愛されてるって思えたらおのずと自信もつきますわ」
ミリアに、アイオロスは何度も恋をする。笑顔が向けられるたび、好きだと言われるたび。ただそこにミリアがいると言うことにさえも。そして二人は想いが通じ合い、揃って宰相のところへと向かった。もちろん宰相は大手を振って喜んだ。二人の婚約は次の夜会で大々的に発表され、ミリアの婚約者がとうとう決まってしまったと泣く泣く諦めた男も多かったとか。小柄で庇護欲を誘うミリアは案外モテていたが、影で宰相が目を光らせていたため結婚相手としては中々手の出せない相手でもあったのだろう。
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