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必死なアイオロス
しおりを挟むミリアに名で呼ばれただけの事が余程嬉しかったのか、アイオロスは今まで見せたことのないくらい破顔していた。それを見たミリアが逆に驚いたぐらいだ。
「・・・そんな風に笑ったりされるのですね」
信じられないものを見るかのようにミリアは不思議そうにアイオロスの顔を見ている。今、ミリアの瞳に映るのは紛れもなく自分一人。アイオロスは嬉しくて、嬉しくて仕方がなかった。
「・・・ミリア嬢がいる」
「えっと・・・はい」
「俺に話しかけてる」
「はい・・・?」
「夢じゃない」
「え、えぇ・・・」
「名で呼んでくれた!」
アイオロスは感激のあまり、ミリアの小さな左手を両手で包み込むと、そのままそこへキスを落とした。
「ひゃぁっ!?」
ミリアは驚いて手を引こうとしたが、アイオロスがそれを許さなかった。じっと見つめてくるアイオロスの目は必死だった。
「愛してます!好きです、大好きなんです。側に・・・いさせてください」
段々と自信なさげな様子になっていくアイオロスに、ミリアはハッと気付く。まだ返事をしていない。こちらの気持ちは何も伝えていない。途端レティシアの言葉が脳裏をよぎる。
ー『もしも、もしもよ?副騎士団長様がミリアの事が好きだとしても同じ事が言える?』
『ミリアの事が好きなのに、ミリアは別の誰かを想っている。しかも同じイニシャルを持つ相手にって』
『好きな相手に勘違いされるのは嬉しくはないでしょう?』ー
早く言わなくては。自分の正直な気持ち。口を開こうとした時だった。
「認められなくても、足りないと言われても、どれだけでも努力します。好きになってもらえるまで、それに足る男になるまで。宰相殿がダメだというのなら、認められるまで頑張ります。俺は・・・俺は、ミリア嬢じゃないと!」
掴んだミリアの手をじっと見つめたまま、必死に言葉を紡いでいたアイオロス。ミリアは、アイオロスの手に自身の右手を重ねた。その光景に、アイオロスはゆっくりと顔を上げる。
「そんなに私がいいんですか?」
ミリアは真っ赤になりながらも、必死な様子のアイオロスが愛おしかった。こんなに鍛えられた体躯の男が、なんの取り柄もない自分にこれでもかというくらいに愛を伝えてくる。それも必死にだ。アイオロスは、王子達やウィルフレッドまでは美丈夫とは言わないが、それなりに整った容姿をしている。平民出身ではなくどこかの貴族の子息なら、貴族女性の結婚相手として優良物件だろう。なにせ、ゆくゆくは騎士団長にと将来を約束されているも同然なのだから。
「ミリア嬢でないとダメです」
「私より綺麗な方はたくさんいます・・・」
「俺は可愛い方が好きです」
「私より可愛い方もたくさんいます・・・」
「俺にはミリア嬢が一番可愛いです。いえ、ミリア嬢だけがかわいいです」
アイオロスの安心させるような微笑みに、ミリアは次第に試すような物言いになっていた。
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