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アイオロスの覚悟
しおりを挟む顔も名も知らない令嬢との縁談を持ちかけられていたとばかり思っていたアイオロス。
「あぁ、ミリアよ。また新たな相手を探さないといけないな。全く、あれはダメ、これはダメと、お前のお眼鏡に叶う男は本当にいるのか?」
宰相はわざとらしくため息をついてみせた。アイオロスは、まさか縁談の相手がミリアだったなんて思いもしなかった。もし今思いを告げれば・・・ミリアの夫になれる権利があるというのだろうか。アイオロスはチラリとミリアの様子を伺う。ミリアは泣き腫らした目でこちらをじっと見ていた。そして目があった。望んでいいのか。自身から申し出た縁談ではない。宰相も残念だという表情だ。そして第二王子であるアルバートの薦める縁談。アイオロスはこの機を逃したらミリアはまた新たな婚約者を見つけるためにお見合いでもするんだろうか。嫌だ。それがアイオロスの本心だった。
「副騎士団長も意中の相手がいるようだし、ミリア、残念だがまた他を探すしか」
「・・・です」
「ん?なんですかな、副騎士団長殿」
「ミリア嬢なんです!」
アイオロスは叫んでいた。逃したくないと、始まりがどうであれ、他の男に譲るなんてもっての他だ。望んでいいのなら。もう遠慮などしていられない。
「俺がお慕いしているのはミリア嬢なんです」
アイオロスは宰相にそう言うと、くるりと振り返り、ミリアの元へと近づいていく。ミリアはアイオロスが自身の事を好きだと言ってくれたのが信じられない気持ちでいっぱいだった。最初から諦めていた初恋の彼。まさかアイオロスも自身の事を好きだったなんて思いもしなかった。アイオロスはミリアの目の前までくると床に片膝をつき、ミリアの手を取った。
「ミリア嬢、昔誘拐されそうになった時、俺が助けた事、覚えていますか?」
「・・・は、はい、覚えています」
「俺はあの時、怯えるあなたを見て、俺が守りたい。支えになりたいと思いました。思えば一目惚れだったのです。ですが、俺は平民出身のイチ騎士にすぎない。あなたは宰相殿を父親にもつ伯爵令嬢だ。身分の差がありすぎた。望んではいけない相手だと必死に心に蓋をしていたんです。でも、あなたの笑顔に、声に、可愛らしい仕草に・・・もう遠慮することができなくなってしまいました・・・あぁ・・・泣いて目が真っ赤だ・・・でもそんなあなたも可愛らしい。本当に重症だ・・・望んでいいのなら・・・許されるのなら、俺はあなたの、ミリア嬢の夫になりたい」
アイオロスはミリアを見上げていたが、とった手は離すこともなく、そのままアイオロスは自身の額に押し当てた。もし断られたらこのまま一生独身で生きていくと決めていた。気持ちを伝えられる機会があっただけ、後悔はしないというものだ。どれだけの時間がたったのだろう・・・アイオロスはミリアからの反応がない事に、振られる覚悟をし始めていていた。
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