騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

agapē【アガペー】

文字の大きさ
上 下
382 / 544

それに足ると認められた時

しおりを挟む


国王は、イズヴァンドの地に足を運んだウィルフレッドに問いかけた。


「えぇ、数人でしたが住民を確認いたしております」


その返答にレイバンが反応を見せた。


「確認・・・実際見たかのような言い方ですね・・・」

「あぁ、イズヴァンドに行って来た」

「!?」

「シアと二人きりの旅をしていたんだ。シアがいろんな所を巡りたいって言うから、あちこち回る中、イズヴァンドにも立ち寄った」


レイバンはその返答を聞き、それが本当の事なのだと知った。何年も足が遠のいていた自身の生まれ故郷であり、育った土地。数人でも、見放された土地で命を繋ぐものがいる事。レイバンはかつて自身を受け入れ育ててくれた孤児院を思い出していた。


「うむ。レイバンよ、経営は困難であろう。立て直しにも相当の時間と根気が必要となる。だが、私にはお前以外あの地を任せられる者が浮かばない。任されてはくれぬか?」


国王に声をかけられ、レイバンはハッと意識を戻す。


「私は罪を犯しました。そんな人間が領地を持って、民の為になどと許されるのでしょうか?」


レイバンは苦し気な表情で国王を見つめる。


「許されるも何も、あの地は元からお前が治めるはずだった地だ。争いの地などにされなければ存命であった伯爵夫妻と共に経営に携わっていたであろう。伯爵の爵位は王家預かりになっている。レイバンよ、せめてもの償いだ。伯爵となって余に力を貸してはくれぬか」


国王は、しかっりと、しかし伺いながらと言った様子で、決してレイバンに無理強いしようとはしなかった。


「私には領地を立て直す力も能力も足りません。難しいかと・・・」

「そのことに関しては、北辺境伯のクレイドル・アンバー。私の義理の弟が後見になる事を了承してくれている。隣の領地で行き来もしやすい。何かあればいつでも頼って欲しいと」


レイバンは考えた。自身は罪を犯した身。このまま言われるがままに受け取るものとしては大きくないだろうか。


「陛下、ありがたい話にございます。ですがひとつだけ頼みがあります」

「うむ、申してみよ」

「領地は全力で再建に臨もうと思います。しかし、爵位は受け取るにはいきません。結果を、これからのイズヴァンドをしっかりと見ていてください。そして、それに足る人間だと思われた時に爵位をお授けください」

「そうか・・・よかろう。それまでは王家預かりとする。安心して領地の再建に力を尽くせ。そして困ったら、一人で抱え込まずにいつでも頼れ、いいな?」

「ありがたきお言葉です」


レイバンは深く礼をした。下を向いていてその表情は誰にも見えないが、瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

処理中です...