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ミリアの心は忙しい

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「どうしたらいいのぉ・・・ねぇ、レティシアー!私、もう終わりよぉ~!」


アイオロスとのハンカチ騒動の後、やっとの思いで取り返したハンカチを握りしめて逃げるように走り去ったミリア。いてもたってもいられず、そのままアバンス公爵家のレティシアの元に駆け込んでいた。


「ミリア、気にしてもしょうがないわ。それに、副騎士団長様は、別に嫌な顔をなさったわけではないのでしょう?」

「そうだけど・・・でも、刺繍のイニシャルは見られてしまったの。きっと、バレたに決まってるわ、私が副騎士団長様をお慕いしてるって・・・」

「別にいいのではなくて?何がダメなの?」

「恥ずかしいの!」

「でも、ミリア、考えてもみて?もし、そのイニシャルが別の誰かだと思われたら?」

「それは別に構わないわ」

「あら、そう?もしも、もしもよ?副騎士団長様がミリアの事が好きだとしても同じ事が言える?」

「へっ?」

「ミリアの事が好きなのに、ミリアは別の誰かを想っている。しかも同じイニシャルを持つ相手にって」

「・・・」

「そう深く考えないで。好きな相手に勘違いされるのは嬉しくはないでしょう?」

「それは・・・確かに」


レティシアはミリアを諭すように話す。


「ねぇ、ミリア」

「何?」

「もしも副騎士団長様から求婚されたら受け入れる?」

「きゅ、求婚!?そ、そんな事あるわけ!」

「わからないじゃない?それにこれはあくまでもしもの話よ」


レティシアはイタズラっぽく笑いながらもミリアの反応を見ている。もしもの話と言われ、恋に夢見るミリアは、妄想してしまった。


「副騎士団長様と結婚・・・旦那様・・・」


ブツブツと小さな声でつぶやいていたミリアだったが、ゆっくりと視線をレティシアに向けると、見られていた事に気付く。バチッと目が合い、何だか居た堪れない気持ちになったが、それと同時にウィルフレッドにこれでもかと溺愛され、必要とされ、幸せそうにしている親友の姿が眩しく、羨ましかったのは事実だった。


「でも・・・お父様が・・・」

「ミリア、確かに貴族の娘だから、政略結婚が当たり前かもしれない。でもね、宰相様はきっとそうは思ってないわ」

「どうしてそう言えるの?何度も結婚をと縁談を持ってくるわ。最近は家格が釣り合わない相手もいるし、歳だって離れている方だっていたのよ?」

「ふふっ、わからないの?」

「何が・・・?」

「何度縁談を持ってこようとも、何人引き合わせようとも、その後に進展がないでしょう?ミリアが嫌がるのをちゃんと認めてるって事よ?だって、話は来ても無理矢理進められた事はないでしょう?」

「・・・確かに・・・」


ミリアはどこの誰かわらない相手と結婚させられるのかと、幸せな愛し愛される結婚には諦めを抱いていた。だが、レティシアの言う通り、貴族令嬢としてはもう二十歳を迎えようとしているのに、結婚していない、ましてや婚約者がいた事がないのは遅い。家にとっていい相手を逃さない為に、婿・嫁候補は早いうちから確保しておくのが普通だからである。





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