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ハンカチをめぐって

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「情けないなんてとんでもありませんわ。でも、お怪我をなされるのは心配です」


心配そうに見上げてくる小柄なミリアに、アイオロスの心臓が早鐘をうつ。腕を掴んだままだった事を思い出し、ゆっくりと視線を移すと、ミリアのその手にはハンカチが握られている。真っ白なハンカチには先程拭き取られた自身の血が付着して赤く染まっていた。


「ミリア嬢」


声をかけるとアイオロスは、掴んでいたミリアの手からハンカチを抜き取る。腕をそっと離すとミリアの瞳をじっと見つめる。


「これは洗って返します」


アイオロスはミリアの手から抜き取ったハンカチを、手を伸ばしても届かない高さまで上げる。


「け、結構ですわ!返してくださいませ」

「いいえ、そういうわけにはいきません」


ミリアがハンカチを取り戻そうと、腕を目一杯伸ばしてピョコピョコと跳ねる。その姿が可愛くてつい揶揄いたくなってしまい、ハンカチを持った手をさらに高く伸ばし、その様子を愛おし気に見つめた。


「うっ・・・ハンカチ返してください」


真っ赤になったミリアは、未だにピョコピョコ跳ねてハンカチを取り戻そうと必死だ。アイオロスは、そんなに大事なハンカチだったのかと、自身の血で汚してしまい、申し訳なさが込み上げてきた。洗って返す。ミリアに会いたいが為の口実が欲しかった。しかしこうなれば、新しいものをプレゼントしたがいいのではないか。そう思い始めたアイオロスは、ずっと高く上げたままだった手にあるハンカチを見上げる。そしてその視線の先に見えたものに気付いた。


「・・・これは・・・」


もっと近くで見たいと手を下ろしかけた時だった。


「あっ!」


ミリアが必死に取り返そうと跳ねていた結果、とうとう手が届きハンカチを掴んでいたのだ。


「ま、待ってください!もう一回見せてください!」


アイオロスはミリアに取られてしまったハンカチを見たいと懇願する。


「ダメです!」


何故かミリアはハンカチを二度と取られまいと後ろ手に背に隠した。アイオロスが見たもの。それは、白いハンカチに、剣と盾の図案に蔦が絡み、イニシャルが施されていた。見間違いでないのなら『A』と。ミリアでも、家名のオルベルでもない。しかも剣と盾など、騎士だと言わんばかりの図案。もし自身のアイオロスの名のイニシャルだったら。そんな期待と共に、近衛の騎士の中にもアレク、アシードなどAのイニシャルを持つ者がいることが頭に浮かぶ。確かめたい。でも確かめて違うと言われてしまえば、ここでこの恋は諦めざるを得ないのかもしれないと、アイオロスは複雑な心境だった。






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