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怪我と天使

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そして翌日の事、アイオロスは騎士達に稽古をつけていた。だが何処か上の空。ぼんやりと何かを考えているかと思えば急に勢いよく首を横に振ったり、いつも冷静な彼とは思えない様子だった。


「・・・はぁ・・・」

「副団長?どうされたんです?」

「あ・・・いや、なんでもない」

「では、一本よろしいでしょうか?」


若い騎士がアイオロスに稽古をつけて欲しいと願い出てきた。


「あぁ、来い」


若い騎士に向き合い、模擬刀を握る。若い騎士達は荒さは見えるが、順調に育っている。若い騎士の一振りを剣で受け止める。重さはないが、素早さはいいなどと評価をしながら、指摘箇所を見ていく。打ち合い初めてしばらくの事だった。


「っ!?」

「副団長、大丈夫ですか!?す、すみません!」

「いや、気にするな。怪我をしたのは自身の責任だ」


騎士が打ち込んだ一振りが、アイオロスの頬を掠めたのだ。手で触れてみると、さほど血は出ていないようだったが、ヒリヒリと痛みはある。普段のアイオロスならこんな怪我などはしない。全てはミリアの事で集中できていない結果だった。自身もまだまだだななどと反省して、立ちあがろうとした時だった。アイオロスの頬に何かが触れた。


「?」


その先を目で追っていくと、細くて白い華奢な腕が見える。恐る恐る顔を上げると、アイオロスは驚いた。ミリアがハンカチでアイオロスの頬を押さえているのだ。


「ミ、ミリア嬢・・・」

「副団長様、大丈夫ですか!?血が出てます・・・」


ミリアの心配そうな顔に、アイオロスの心臓は脈を早くする。今だけは、ミリアの視線と心配は、間違いなく自分にだけに向いている。その事が嬉しくて、次第に頬が緩んでいく。


「副団長様?」


何も言わずに笑みを浮かべてこちらを見ているアイオロスに、ミリアはほんのり赤くなりつつも首を傾げる。


「あぁ、すみません。目の前に天使が舞い降りてきたもので・・・」

「な、何をおっしゃってるんですか!?」


顔を真っ赤にして手を離そうとしたミリアの腕を咄嗟にアイオロスは掴んだ。


「あ・・・す、すみません」

「い、いえ・・・」


アイオロスに腕を掴まれたまま、二人して真っ赤になって俯いてしまった。先に口を開いたのはアイオロスだった。


「お見苦しいところをお見せしました。俺もまだまだですね。情けない・・・」


アイオロスの悲しそうな表情に、ミリアは見入ってしまった。




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