騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

agapē【アガペー】

文字の大きさ
上 下
369 / 544

相談相手と栄誉

しおりを挟む


「全然気持ち悪くなどありません。むしろ嬉しいくらいですよ」


俯いていたミリアはアイオロスの言葉におずおずと顔を上げる。


「こんなに可憐な女性に見られていたなんて、もっと頑張らねばと気合がはいりますね」


ミリアは気持ち悪いと思われていなくてよかったとほっとしていたのも束の間、アイオロスの発した可憐なという言葉を頭で反芻し始めた。少なくとも自分は目の前の男に嫌われてはいないようだという喜びがじわじわと勝ってきた。その反面、アイオロスは必死に言葉を探して口に出した為、失礼にならなかっただろうか、機嫌を損ねていないだろうかと気が気ではなかった。


「俺は・・・いつもとそんなに違って見えましたか?」

「えぇ、随分と慌てていらっしゃったというか、悩み事でもあるのかと・・・」

「悩み事・・・そうですね」


目の前のミリアの事が好きでそれを言えずにいる。その上顔も名も知らぬ相手との縁談まで持ち出されて、なんと断ればいいのか悩んでいる。そんな事を目の前のミリアに言っていいものかどうか、言いあぐねてしまった。


「わ、私でよければ!」

「?」

「相談相手になりますわ」


勢い余って随分と大きな声で詰め寄ってしまったミリア。その距離感にしまったと気付いた時には遅かった。


「す、すみません!」

「いえ・・・」


ミリアもアイオロスも互いに真っ赤になり俯いてしまった。この空気は流石に気まずい。意を決して先に口を開いたのはアイオロスだった。


「で、では、少し話を聞いてくれますか?」

「は、はい!」


アイオロスは手を差し出すと、ミリアは照れながらも、その手に自身の手をそっと重ねた。アイオロスはミリアの小さな手から伝わる熱に、もしかして自分を意識してくれているのだろうかとドキドキしていた。


「こちらに座りましょうか」


アイオロスは自身の騎士服のマントをベンチに敷くとミリアに座るように促した。


「マントが汚れてしまいます!」

「いいのですよ。マントはこうやって使うこともあるんです。なんなら野営の時なんか、地べたに敷く事だってあるんですよ?」

「そ、そうなのですか?・・・で、では」


ミリアは緊張しながら恐る恐るマントの上に腰を下ろした。隣には鍛えられた体躯のアイオロスがいる。いつも眺めていただけの遠い存在。数年前に誘拐されそうになり助けてくれた憧れの人であり、初恋の彼。そんな男が隣にいるというだけでミリアは胸がいっぱいだった。


「俺・・・副騎士団長になる事が決まったんです」

「そうなのですか!おめでとうございます!」

「ありがとうございます」


好きな人におめでとうと言って貰えることは何よりも栄誉な事のような気がしていた。




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!? 本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーレットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーレットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーレットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーレットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーレットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーレットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーレットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーレットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーレットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

処理中です...