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北の辺境領
しおりを挟む「クレイドルか・・・エルサにもしばらく会ってないのぉ・・・」
いつもなら威厳のある国王だが、今は可愛い姪の姿を思い出しているのか随分と眉が下がっている。それもそのはず。エルサは国王の妹、王妹が降嫁して北の辺境伯であるクレイドルとの間に設けた子。つまりのところ、国王レオナルドにとっては唯一血の繋がった娘のようなものだからだ。ミシェリアがいくら王妃から生まれた娘で、王女であるとしても、自身の子でないのなら正当な血筋ではない。
「父上はエルサ嬢を随分と気に入っておいでですからね」
これまで二人の話を静かに聞いていたアルバートが、くすくすと小さく笑っていた。
「仕方あるまい。私の子はお前とヴィンセントだけだ。あんなに可愛い娘がおったら私は溺愛するだろうな。はぁ・・・レティシア嬢、いや夫人がヴィンセントの妃になってくれたら、交流と言う前提で毎日お茶の時間ぐらいは共にできただろうになぁ・・・」
「陛下なら義娘でなくともシアを呼びつけているではありませんか」
ウィルフレッドが少しだけむすっとした表情を見せる。
「そうですよ、父上。それに、兄上には伴侶となる方が見つかったのです。ご自身の相手でもあるまいし、いつまでも未練を持たないでください」
「そうか!その手が」
「絶対ダメですからね?」
「私としても困りますし、もしそんな事をされたら、私は陛下と奪い合いする為に剣を抜かざるを得なくなります」
「・・・わかった」
ウィルフレッドもアルバートも、国王の閃いたような表情と、その手があったという言葉ですぐにわかった。国王レオナルドが娘としても、女としてもレティシアを欲しいと思っている事。そして王命でとでも言いたげで、いい事を思いついたという表情を浮かべた事。あの第一王子もヴィンセントもだが、子も子であれば、親も親である。言えば手に入る、手に入れると言う自信。ウィルフレッドとアルバートは怒りや焦りではなく、呆れを感じていた。なんなら今からでも若い令嬢でも娶って娘を作れとでも言うかとアルバートは考えたが、ヴィンセントとエリティアの間に女児が産まれれば、孫可愛さに解決するだろうと思案していた。一方、ウィルフレッドは、レティシアとの子どもに、少しでも面影があるようなら、城に登城させろ、会わせろ、ヴィンセントの子が男であれば結婚させよと命をくだしてきそうだとため息をついていた。
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