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本当の親子のように
しおりを挟む出かけるのに時間を要するだろうと思っていた公爵夫妻は呆気にとられていた。横でレティシアが含みを持たせた笑いをするものだから、何かがあったのだろうと二人は思った。
「レティシアちゃん、ウィルフレッドに一体どんな魔法をかけたのかしら」
「魔法ですか?そんなものかけてませんよ」
「しかし随分とあっさりと出かけていったしな。私もクラウディアも驚いている」
「えぇ、もっと時間がかかると思ってたわ」
詳しく聞きたいし、十日間の事も知りたいと公爵夫妻はレティシアをお茶に誘った。
「それで?」
クラウディアがワクワクした表情を見せて話の続きを待っている。
「ハンカチは刺繍を施しただけのいたって普通のものですわ。次を育てないと、いつまで経っても騎士団長のままよって言いましたでしょう?あの後、誰が候補で、何をしなければいけないのかなどの話をしたのです」
「ウィルフレッドの中でやる事が明確になったと言うわけか」
「えぇ、その通りです。その上、その候補の騎士の方が騎士団長として任せられるようになれば、思わぬ副産物が生まれる事がわかったのです」
「副産物?」
「なぁに、レティシアちゃん」
「恋が叶うかもしれないお話です」
公爵と夫人は目を合わせた後、レティシアに向き直る。そして次の言葉を待っていた。
「そこは内緒です」
「えぇ!?」
「教えてくれたっていいじゃないか」
「ダメですわ」
三人は本当の親子のように仲睦まじい様子だった。愛や恋などの話題に全く興味なかった息子に、こんなにかわいい嫁が来て娘になってくれた。公爵夫妻は孫ができるのを楽しみに思ってはいたものの、二人が初夜を迎えていない事に気付いていて、急かすのもよくないと口にはしないようにしていた。夫婦としての道の出鼻を挫かれた。そんな二人に貴族としての責務などとは言えなかったのだ。息子は30近い事もあるが、レティシアはまだ18歳。焦らずとも良いと思うのは、ルシアンが遅くに産まれた経験をした二人ならではかもしれない。
「しかし、そうなるとウィルフレッドにも次期公爵としての教育を本格的に行っていかないといけないな」
「そうね、私もルドもまだウィルフレッドがその準備を始めるとは思ってなかったから、なんの準備もしてこなかったものね」
「レティシアにも公爵夫人としてこの家を支えてもらわねばならんからな」
「えぇ、その点は心配しておりません。お義父様の選んだ素晴らしい女性に教えを乞うのですもの」
「聞いた!?ルド!なんて可愛い事言ってくれるのかしら!レティシアちゃん、大好きよ!あなたが娘になってくれてよかったわ!」
夫人クラウディアはレティシアの横に移動すると、ぎゅうぎゅうに抱きしめた。幼くして母を亡くしたレティシアにとって、クラウディアの温もりはとてもあたたかかった。
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