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案外あっさりと
しおりを挟む「二度目のおはようだな、ウィルフレッド」
「えぇ、おはようございます父上」
「あら、もう会ってたの?」
「そうなんだ、ウィルフレッドが随分と早くに起きてきていてな。身体を動かしたいと言って降りてきたところに出くわしたんだよ」
「そうなのね」
公爵ディアルドと夫人クラウディアが話している中、ウィルフレッドとレティシアは隣り合った席につく。
「レティシアもおはよう、昨日はよく眠れたかい?」
「はい、ぐっすりと」
「それはよかった」
「お義姉様、おはようございます」
「おはよう、ルシアン」
「みんな揃ったな、頂こうか」
ディアルドの呼びかけに皆が食事を始めた。ウィルフレッドがレティシアにあーんをしたがり、そしてねだり、それを見たディアルドもクラウディアにねだり、ルシアンは礼儀正しく食事する。使用人達は、ルシアン坊ちゃん、気の毒にといたたまれない気持ちで見ているしか出来なかった。食事も終えて、ウィルフレッドは一人、自室へ支度へと戻っていった。そしてしばらくすると、準備ができたウィルフレッドが騎士服姿で玄関へと出てきた。
「やっぱり素敵ね」
「シアにそう言われると騎士でよかったと心底思うよ」
「私の旦那様はとっても素敵だわ」
「・・・あまり褒めすぎもよくないな」
「あら、どうして?」
「・・・シアをかまいたくなる。行きたくなくなってしまう」
眉を下げ、泣きそうな表情にる。ウィルフレッドはたまらずレティシアを抱きしめた。レティシアはしまったと思った。このままだと行きたくないを発動しそうだ。その様子を少し離れたところから見ていた公爵夫妻も、あぁ、これはきっと時間がかかる。そう諦めモードに入っていた。
「でも、俺にはお守りがある」
「?」
「?」「?」
レティシアの肩に額を預けて、今にも駄々をこねてぐずりそうだったウィルフレッドが、顔を上げると自慢気にニヤリと笑う。
「これ」
ウィルフレッドの胸ポケットからあの刺繍のハンカチが出てきた。レティシアは随分気に入ったんだなと、しょうがないなという顔でウィルフレッドを見ていた。
「見事な刺繍だな」
「とても素敵ね」
離れて見ていた公爵夫妻が声をかける。
「えぇ、シアが俺だけに刺繍を施してくれたんです」
ウィルフレッドは自慢気に俺だけにと随分と強調して話してみせた。自分だけと言うのが相当嬉しかったらしい。
「いいなぁ、レティシア、私にも作ってくれないか?」
「お義父様のお願いでも聞けませんわ」
珍しくキッパリと言ってのけるレティシアに、公爵も驚き、そしてとても残念そうな表情を浮かべる。ウィルフレッドはご満悦だ。
「では、シア、行ってくる」
「えぇ、帰りを待ってるわ」
二人はキスを交わすとウィルフレッドは名残惜しそうな表情を見せたが、ハンカチを握った手を見ると、にこやかに出かけていった。
「案外あっさりだったな」
「えぇ、もっと時間かかると思ってたわ」
「ふふっ」
不思議そうな二人の横でレティシアは笑い声をこぼしていた。
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