騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

agapē【アガペー】

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おはようのやり直し

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口を尖らせポスポスとウィルフレッドの胸を叩いていたレティシア。ウィルフレッドはしばらくの間、好きにさせていた。なによりも自身に感情を向けてくれる事が嬉しい。出会って間もない頃の、怒りであってもそうだった。好きや嫉妬ならなおのこと嬉しい。しばらくはけ口のない感情をウィルフレッドに向けていたレティシアが、冷静さを取り戻したらしい。


「痛かった?」


何も言わずにじっと見つめてくるだけのウィルフレッドに、申し訳なさそうにレティシアが尋ねる。


「全然。このくらいどうって事ない」


ウィルフレッドは甘い表情を見せると、レティシアに深い口づけを落とす。


「んっ・・・ん」


一度は離れたものの、何度も何度も啄むようなキスを繰り返した。そしてレティシアを抱きしめ直すとそのまま寝台へと横になった。


「えっ!?」

「ふっ・・・おはようのやり直しだ。俺が勝手に寝台からいなくなっただけで泣いてしまう妻がいるからな」

「さ、寂しくて泣いた訳じゃないの!」

「まぁ、いいさ、おはよう、シア」

「・・・おはよう、ウィル」


しばらくそうやって寝台の上で見つめあっていた。


「どこに行ってたの?」

「ん?あぁ、少し身体を動かそうと思ってな」

「そうだったのね・・・何か呼び出しでもあったのかと思ったわ」

「それはすまなかった。一声かければよかったんだろうが、気持ちよさそうに眠ってたからな。起こすのも悪いかと思って。それに・・・決心が揺らぎそうでな」

「決心って?」

「今日から復帰するだろう?だから気合い入れるっていうか、そっちに気を向けたいというか・・・とにかく気合いでも入れないと、また騎士団行きたくないと駄々をこねてしまいそうなんだ」


ウィルフレッドは眉を下げて情けないとでも言わんばかりの表情だ。


「でも先に進まないとな。シアとの毎日が待ってるって思うだけで頑張れる」


ウィルフレッドは満面の笑みを浮かべる。レティシアもにっこりと笑い返すと、二人は寝台から起き上がる。


「さぁ、朝食を食べに行こう」


ウィルフレッドが差し出した手をとり、レティシアも歩き出した。結婚式をあげれなかった事。一連の事件での事も、ウィルフレッドだけが傷を負ったのだと思っていた。だから自分は彼の心を守ろうと。心の傷。少なくとも自身にもある事に気付いてしまった。そして、案外自分も堪えていたんだなと。ウィルフレッドの存在が自身の中でどれだけ大きくなっているか、そして必要としているのかを知ったレティシアだった。




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