上 下
337 / 543

休暇十日目⑤その一言は

しおりを挟む


湯あみをしてラフな格好で寛いで・・・と思っていたのに、ウィルフレッドにせがまれて結局ドレスを着せられたレティシア。今は家族揃って食事の席についていた。


「それで、休暇はどうだったんだ?」


公爵当主であるディアルドが二人に問うた。


「とても有意義な時間になりました。王都で近衛などをしていれば中々行く機会のなかった辺境など、現状を知ることができましたし、師匠にもお会いでしました」

「カルスヴァ辺境伯の怪我の具合はどうだった?」

「まだ起き上がるのがやっとという状況ではありましたが、随分と回復しておられましたよ。これも夫人の看病あってこそでしょう」

「夫人?辺境伯はご結婚されていたか?」

「はい、実は少し前に奥方を迎えられておられます」

「はて・・・何も話は聞かなかったな」

「それもそうですよ。秘密裏に連れ出して娶られたんですから」

「そうだったのか。どこのご令嬢がと言っても、カルスヴァ辺境伯はだいぶ年齢もいってるし、適齢期のご令嬢にはな・・・」


ディアルドは年齢の釣り合う女性がいたかなどと思考を巡らせていた。


「お義父様、ゲオルグ様は長年の恋を実らせましたのよ?ご心配ありませんわ」


レティシアが嬉しそうに微笑むと、ディアルドは目を見開き驚いたが、次第に表情を緩めた。きっとどこかの未亡人あたりになったご令嬢がいて、その女性を想ってこれまで結婚しなかったのかと納得しかけたところだった。


「まぁ、俺もその相手がイザベラ嬢だと知った時には驚きましたが」


緩んで微笑んでいたディアルドはその表情のまま固まった。かわりに夫人のクラウディアが続く。


「イザベラ嬢って、ランドルスト公爵令嬢の!?」

「えぇ、そうですよ」

「たしかウィルフレッドに傷を追わせてから牢に捉えられていたわよね?」

「そうなんですが、これ幸いにと師匠が辺境へと連れ出されたんですよ」


ウィルフレッドとレティシアは事の顛末を話していった。公爵夫妻は驚きの連続ではあったが、ゲオルグもイザベラも相思相愛だと聞くと安心した様子だった。ルシアンは興味津々に聞き入ってはいたものの、大人の話と静かに食事を進めていた。


「それはそうと、ウィルフレッドは明日から騎士団に復帰するのだろう?」


会話の流れで、ふと、ディアルドがそうこぼすと、ウィルフレッドはピシリと音を立てたかのように固まってしまった。


「ん?」

「お義父様・・・」

「私は、何かしてしまったか?」

「今のウィルには一番酷な一言でしたわ」


そう言ったと同時に、気付けばレティシアはウィルフレッドの膝の上に移動していた。こうなればもうだめだ。ぐずぐずと言い出し、また離してもらえないだろうと静かに受け入れるしかなかった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

冷血皇帝陛下は廃妃をお望みです

cyaru
恋愛
王妃となるべく育てられたアナスタシア。 厳しい王妃教育が終了し17歳で王太子シリウスに嫁いだ。 嫁ぐ時シリウスは「僕は民と同様に妻も子も慈しむ家庭を築きたいんだ」と告げた。 嫁いで6年目。23歳になっても子が成せずシリウスは側妃を王宮に迎えた。 4カ月後側妃の妊娠が知らされるが、それは流産によって妊娠が判ったのだった。 側妃に毒を盛ったと何故かアナスタシアは無実の罪で裁かれてしまう。 シリウスに離縁され廃妃となった挙句、余罪があると塔に幽閉されてしまった。 静かに過ごすアナスタシアの癒しはたった1つだけある窓にやってくるカラスだった。 ※タグがこれ以上入らないですがざまぁのようなものがあるかも知れません。  (作者的にそれをザマぁとは思ってません。外道なので・・<(_ _)>) ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※作者都合のご都合主義です。作者は外道なので気を付けてください(何に?‥いろいろ) ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...