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休暇九日目④フラれたレティシア

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ブルーノに乗って街を散策した二人は屋敷へと戻ってきた。ここでまた、ウィルフレッドの表情が険しくなる。


「何?また猫を警戒しているの?」

「当たり前だ。アイツは隙あらばシアを狙っているからな」


屋敷の玄関に二人が差し掛かった時、どこからともなくにゃぁぁんと間伸びした声が聞こえる。途端にウィルフレッドは警戒心マックスでキョロキョロする。だが、その声の主を意外なところで目にすることになった。


「坊っちゃま、若奥様、お帰りなさいませ」


玄関先にて出迎えた若いメイドの腕にあの白猫が丸まっている。なんなら胸に擦り寄っている。


「あぁ、戻った」

「ただいま・・・随分と懐いたのね?」

「はい、お二人が出かけた後ぐらいからでしょうか、やたらと足に擦り寄ってくるものですから、転びそうになって・・・危ないですから抱きかかえてどこかに動いてもらおうとしていたら、このまま降りてもらえなくなってしまいまして・・・」

「そうなの・・・」


ウィルフレッドはしめしめとニコニコしていたが、レティシアの言葉の歯切れが悪いことに気付く。


「シア、どうした?」

「私、フラれちゃったわ」

「別にいいじゃないか」

「手触りが気持ちよかったのに」

「・・・俺が代わりに戯れてやるからな?」

「胸で負けたのかしら?」


ポツリとこぼしたレティシアの言葉にウィルフレッドはギョッとする。しかし、やっと独り占めできる時間を無駄にする事はないと、食事と湯あみを済ませると、ずっとレティシアの膝に頭を乗せて甘えていた。頭をゴロゴロ動かしてみたり、レティシアの手を握ってみたり、足に手を当ててスリスリしてみたり。とにかくレティシアに触れていたくてずっとそうしていた。しばらくすると、上から寝息が聞こえてきたことに気付いた。レティシアが眠ってしまったのだ。


「シア・・・可愛いな」


ウィルフレッドはしばらく寝顔を眺めていたが、このままの体勢では休まらないだろうと、起き上がり抱えると寝台まで運んでいった。


「シア・・・俺だけのシア・・・愛している」


レティシアの髪をひと掬いしてキスを落とすと、自身も横になり、後ろから優しく抱きしめる。腕の中に愛しいレティシアがいる。いつもならすぐに眠りにつけるのだが、今日はなかなか眠れない。明日で十日の休暇が終わる。毎日常に離れずに一緒にいた愛しいレティシア。休暇が終わると、自身は王宮に出仕しないといけない。幸せだった時間が終わってしまうようで、ウィルフレッドは本気で騎士団長辞めたいと悶々としていた。眠りにつけたのは空が白み始めてからだった。



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