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休暇九日目③独占欲と掴んだ幸せ

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「ハンス、そこまでだ」


しばらく静かに聞いていたウィルフレッドだったが、射抜くような視線を送りながら低い声を出す。


「おぉ、怖い」

「ウィル、怒るような事あった?」

「シアを女神と評するのはいいとして、見入るのはどうかと思うぞ?どんなに信仰したくなる女神のようなシアでも、お前にやることはできん。諦めろ」

「いやはや、嫉妬を通り越して、独占欲丸出しですな」

「ウィル、何も私を望んでなんかいらっしゃらないわよ」

「わからないだろう?男は飄々としていて、心では何を考えているかわからない生き物だ。もしかすると、やましい考えを持っているかもしれない。頭の中だけでもシアをそんな扱いする事など、断じて許さん」

「もう・・・」


苦笑を通り越して呆れである。


「ウィルフレッド様、私は羨ましいですよ」

「何だと!?」

「ご夫人が欲しいとかそうではなく、そこまで大事に想う方ができた事が羨ましくもあり、同時に嬉しくもあるのです」

「それは・・・」

「こちらとて、生まれてからずっとあなたを見てきているのですよ?親戚の子どもを見守ってきたような感覚です。親心のように嬉しく思っておる次第です」

「そ、そうか・・・」

「ね?言ったでしょう?」

「あ、あぁ・・・」


ウィルフレッドはほんのり頬を赤く染めると、恥ずかしそうにそっぽを向いた。


「ウィル、ご挨拶も済んだ事だし、散歩にでも行かない?昨日行けなかった所を回りたいわ」

「ん、わかった」


レティシアからのおねだりに、ウィルフレッドはたちまちご機嫌だ。ハンスと別れ、ブルーノに跨り、二人は昨日とは違う、民家や田畑が広がる地を中心に回っていった。


「シア、退屈してないか?」

「全然」

「それならいいが」

「私を誰だと思っているのよ。これでも辺境で育ったのよ?何なら街中より農村風景の方がしっくりくるわ。それに、賑わっているところだけが街ではないの。生活が営まれている所こそ領民の皆さんの暮らしが見えるというものよ?」


レティシアにそう言われ、やっぱり自分の妻になるのはこの人しかいなかったと改めて実感した。きっと家の為にと政略結婚をしたとして、能力に長けている女性、領地を発展させれるよう尽力する女性、はたまた愛しあえるような相手。どれかくらいは持ち合わせていても、全てを兼ね備えている相手などなかなか巡り会えないもの。レティシアはその全てを持ち、そして、自身の全てを受け入れてくれる。曝け出すことのできなかった自身をいとも簡単に引き出してくれた。レティシアの前でだけは、騎士団長のウィルフレッドでもなく、次期公爵である子息のウィルフレッドでもなく、ただ一人の男であるウィルフレッドでいれる。それがどれだけ嬉しいことなのかを噛み締めていた。





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