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休暇八日目④先を越された相手
しおりを挟む使用人達と昔の話や、夜会でのウィルフレッドの様子、出会ってからこれまでに起きたことやらたくさん話をした。
「私の知らないウィルがたくさんいたわ」
「なんだか恥ずかしいな」
食後のお茶を飲みながらゆっくりしていた二人だったが、話題にも出ていて、レティシアも気になっていたものがあった。
「ウィル、リードに早く会ってみたいわ!」
「そうだな。俺が最後に見た時はまだ子犬だったからな・・・よし、行くか」
ウィルフレッドはレティシアの手を取ると、裏庭へと進んでいく。
「えっと・・・なんで増えてるんだ?」
ウィルフレッドが困惑して見ていた先には、大きさは様々だがよく似たコリー犬が数頭。公爵領はいつからこんなに犬を飼っていたんだと困惑していた。そんな様子を見かねて老執事が声をかけてきた。
「リードは一番右にいる大きな一頭です」
「待ってくれ、何故こんなに増えて・・・しかもコリー犬ばかり」
「ふふっ、ウィル、わからない?」
「な、なんだ?シアはわかるのか?」
「執事さん、もしかしてだけど、家族なのではないかしら?」
「流石若奥様、ご名答です」
「ご名答?どう言うこと・・・まさか」
「リードはお父さんになったのね」
「その通りでございます。昨年たまたまコリー犬のメスが迷い込んできたのですが、リードと随分仲睦まじい様子になりまして。飼い主は他国の商人であったのですが、2頭の様子を見るや、そのまま預けてかまわないかとおっしゃられましてね。そのまま嫁入りとなったわけでございます」
「そうなのか・・・とすると、周りの小さなのはリードの子か?」
「そうです。真ん中のリードより少し小さめで、模様が少なめの一頭が番のレティでございます」
「レティだと!?」
「はい・・・あ、奥様とお名前が似ておりますね」
老執事はにっこりと笑って二人を見た。
「誰が名付けたんだ?」
「旦那様の公爵様でございますよ?」
「父上が?」
「えぇ、昨年領地に滞在されていた時にレティが迷い込んできましてね。その際にレティと名付けられまして」
「わざとか・・・?」
「はい?」
「俺がシアを想い続けていたからわざとレティなんて名を?」
「ウィル、お義父様にその頃から私の事話していたの?」
「いいや・・・知らないはずだ」
「だったら偶然なのね」
「・・・まさかだな・・・しかし」
何とも言えない様子のウィルフレッドの様子を見ていた執事がぽつりとこぼした。
「先を・・・越されましたな」
「はぁ?」
「リードは三頭の子持ちでございます」
「・・・悪かったな・・・」
ずぅぅんと頭を下げて落ち込むウィルフレッドだったが、その視線に飛び込むようにもふもふの塊が遮った。
「わぁっ!?」
「シ、シア!?」
なんと、ウィルフレッドを通り越して、斜め後ろにいたレティシアに飛びかかったのだ。撫でて撫でてといわんばかりにこれでもかと尻尾を振って。
「おいっ!こら!!シアに群がるな!」
ウィルフレッドはかけてきた子犬達をレティシアから引き剥がそうと必死になっているが、三頭が変わるがわるにレティシアに群がって戯れていく。
「ワゥ・・・」
低く静かに一頭が声をかけると子犬達はたちまち駆けて母犬レティの元に戻っていった。
「リード、助かった・・・じゃない!子どもの躾はしっかりしろよ!」
これは誰だ?何を言ってるんだ?と気にする様子もない犬に向かって、ウィルフレッドは嫉妬と説教を繰り返していた。執事とレティシアは後から、何をやっているんだとばかりに大笑いしてその様子を見ていた。
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