騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

agapē【アガペー】

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休暇八日目⑤第二の迷い客

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ひとしきりコリー犬のリードに嫉妬と説教を繰り返し、落ち着きを取り戻しつつあったウィルフレッドは、再度嫉妬に荒れることになるとは思ってもみなかった。


「全く困ったもんだ、シアは俺のだって言うのに・・・はぁっ!?」


振り返ると、芝生の上に座ったままだったレティシアの膝の上を占拠する物体がいた。


「ウィル、この子のお名前は?」

「名前も何も、飼っている猫じゃない!」

「そうなの?随分人慣れしてるから、猫も飼ってるのかと思ったわ」


レティシアは膝にちょこんと乗ってきて、丸まって眠る真っ白な猫をそっと撫でながら愛でている。


「シアは、俺の・・・そこは俺だけの場所なのに!」


ウィルフレッドは頬を膨らませレティシアの膝に鎮座する猫を睨みつける。レティシアはいい大人がなんて顔をと思って苦笑していたが、猫は片目をうっすら開け、勝ち誇ったように目を閉じて、ゴロゴロと喉を鳴らしていた。


「執事さん、この猫は本当に飼っているのではないの?」

「いえ、さすがには猫は飼っておりません。どこからか迷い込んで来たのやもしれませんな」

「ふふ、ここは迷い込むお客さんが多いわね」

「そうそう迷い込まれても困る。ここは保護施設じゃないんだぞ・・・」


嬉しそうに猫を撫でているレティシアを見ながら、ウィルフレッドはしょんぼりと肩を落としていた。


「シア、そろそろ屋敷に戻ろう。お茶でも飲んでゆっくりしないか?」


レティシアは猫を抱え、地面に下ろす。ウィルフレッドの誘いに、立ち上がって歩き出そうとすると、猫が足に纏わりつくように擦り寄ってきた。


「あら・・・困ったわね。随分と気に入られちゃったみたい」

「離れろ!シアは俺のだぞ!」


今度は猫にまで説教をするつもりなのか。ウィルフレッドはレティシアを抱きかかえ、猫に睨みをきかせて足速に歩き始めた。だが猫も猫である。二人の後ろをずっと着いてくる。足音が聞こえないせいか、着いてきていることにウィルフレッドは気付かぬままだった。


「よし、ここならいいだろう」


ウィルフレッドは、お茶の準備されたサロンでレティシアを椅子に下ろし、自分も近くにあった椅子に座ると唖然とした。いるはずのない猫が再度レティシアの膝を占拠していた。


「何でいるんだ!?」

「あら、着いてきちゃったの?」


傍で見ていた執事は、おかしくて仕方がない。騎士団長をも務める聡明な子息が、猫に揶揄われている。それを真剣に嫉妬し、必死にどうにかしようとしている。心が狭い、いや、相手が犬であろうが猫であろうが彼女を独り占めしていたいのだろうと。たとえそれが生き物でなく、ぬいぐるみやクッションであっても嫉妬してしまいそうだなと心の中で思っていた。





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