上 下
321 / 543

休暇七日目⑤騎士団長辞めたい

しおりを挟む


ウィルフレッドとレティシアが辺境を発ったすぐ後、ソハナスの宰相レガルドも辺境を発った。長期で国をあけていては、王に何かを疑われかねないと一旦戻ることにしたのである。ウィルフレッドとレティシアはブルーノに揺られ、最後の目的地にほど近い街まで来ていた。


「シア、暗くなる前に宿を取ろう。屋敷までそう遠くはないが、暗くなると危険だからな」


最後の目的地は、王都と北の辺境領の中間に位置する公爵家の領地にある屋敷。ウィルフレッドは、近衛の騎士団長になってからはあまり時間を取ることができず、領地の屋敷には訪れてはいなかった。かれこれ数年、もしかすると十代を最後に訪れていなかったかもしれない。





ウィルフレッドとレティシアは宿に部屋をとると、互いに湯あみを済ませ、ソファに並んで座り、果実水で喉を潤した。


「シア、休暇もあと二日だな・・・」

「えぇ、そうね。でも、いろんな所を回れてよかったわ」

「・・・」


急に無口になったウィルフレッドに気付き、レティシアは顔を覗き込む。


「どうしたの?」

「・・・騎士団長辞めたい」

「また、そんな事を言っているの?」

「・・・なんで俺だけ毎日王宮に行かなければいけないんだ・・・?師匠だって、あいつだって、近くにいていつでも好きな相手と一緒にいれるって言うのに・・・俺は・・・なんで他人を守ってシアと一緒にいれないんだ・・・」

「・・・そんなに辞めたい?」

「あぁ、できるならすぐにでもな」


ウィルフレッドは手に持っていたグラスをテーブルに置くと、レティシアをぎゅっと抱きしめた。しばらく沈黙が流れ、ウィルフレッドの腕の力ゆっくりと緩んでいく。


「こんな事を言っているとまたシアに叱られてしまうな」


ウィルフレッドは眉を下げてレティシアの顔を覗き込む。


「辞めてもいいのよ?」

「・・・えっ・・・本当か?」

「まぁ、格好いい騎士団長様が見れなくなるのは残念だけど」


レティシアはイタズラっぽい笑みを浮かべる。


「わ、わかった!言わない、もう、言わないから!」


ウィルフレッドは途端に焦った様子になり、レティシアの両肩を掴んだ。ウィルフレッドは、自身が騎士としていなければ他の男に目移りしてしまうのではないかと思ったのだ。


「すまなかった・・・」


力なくレティシアの肩に頭を預けて縋ったウィルフレッド。その様子を見て、レティシアも流石に反省した。しかしまだ騎士団長でいてもらわないと困る。いろんなところを巡り、さまざまな情報が手に入った。あとはどうすればピースが上手くハマるのか。縋って甘えるウィルフレッドを宥めながら、レティシアはそんな事を考えていた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

離宮に隠されるお妃様

agapē【アガペー】
恋愛
私の妃にならないか? 侯爵令嬢であるローゼリアには、婚約者がいた。第一王子のライモンド。ある日、呼び出しを受け向かった先には、女性を膝に乗せ、仲睦まじい様子のライモンドがいた。 「何故呼ばれたか・・・わかるな?」 「何故・・・理由は存じませんが」 「毎日勉強ばかりしているのに頭が悪いのだな」 ローゼリアはライモンドから婚約破棄を言い渡される。 『私の妃にならないか?妻としての役割は求めない。少しばかり政務を手伝ってくれると助かるが、後は離宮でゆっくり過ごしてくれればいい』 愛し愛される関係。そんな幸せは夢物語と諦め、ローゼリアは離宮に隠されるお妃様となった。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

悪役令嬢に転生してヒロインを溺愛している王子に殺されそうになったが一番の推しの近衛騎士に助けられて結婚しました

夜炎伯空
恋愛
「ぎゃーーーーーー!! 殺さないでーーーーーー!!」 「あれだけのことをしておいて、今更、命乞いだと!! 彼女にしたことは死をもって|償(つぐな)ってもらうからな!!」 「それは私だけど、私じゃないんですーーーーーーーー!!!」  乙女ゲームの悪役令嬢カリアに転生した直後、私はヒロインを愛する王子に殺されそうになっていた―― 「ラムド、一生のお願い!! 私を助けて!!」  私はそう言って深々と頭を下げた。 「カリア様でも頭を下げることがあるんですね……。わかりました、何とかしてみせます」  悪役令嬢カリアの滅多に見せない行動に、ラムドは驚きながらそう答えた――

処理中です...