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休暇六日目③騎士達の心配は無用
しおりを挟むしばらくエルサと横に並び、騎士団の稽古を眺めていたレティシアの元にウィルフレッドが戻ってきた。レティシアにいい所を見せたいウィルフレッドによって打ち負かされてしまった騎士達が、ぐったりと座り込んでいる。あれだけの人数相手をしたのにも関わらず、ウィルフレッドは嬉々としてレティシアの元へと駆けて行った。その様子を見ていた騎士達は、近衛騎士とはこれほどまでにと驚いている反面、汗や砂まみれで女性に近寄るなど、やめたがいいのにと心配する者もいた。大抵の貴族の女性は、汗や砂で汚れるのを嫌うもの。この辺境地で生まれ、小さい頃から騎士達に混ざって稽古をしてきたエルサが珍しいのだ。デレデレしている騎士団長も、さすがに妻に嫌われては落ち込んでしまうのではと見守っていたが、そんな心配はいらないのである。
「シア!」
「お疲れ様」
まるで撫でてと言わんばかりに尻尾を振ってじゃれつく犬のように、ウィルフレッドはレティシアに駆け寄った。
「見ていてくれたか?」
「えぇ、私の旦那様はとっても格好いいわ」
「シア!」
嬉しさのあまり、ウィルフレッドはレティシアの身体を引き寄せぎゅうぎゅうに抱きしめる。レティシアの首に頬を擦り寄せ、肩口にちゅっ、ちゅっとたくさんキスを落としていく。
「アバンス団長殿、そのくらいにしといてくれませんか?騎士達が困惑してますから」
苦笑いするソルディオの視線の先には、稽古でぐったりしていた騎士達がポカンと口をあけたままで二人を見ていた。
「それに、汗臭いままで砂にまみれたまま抱きつくなんて・・・」
ウィルフレッドは一瞬ソルディオに視線を向けるとギロリと睨む。だが、途端に不安な表情になり、腕の中にいる愛しい妻の顔を覗き込んだ。
「ウィル、気にする事ないわ」
レティシアはにこりと微笑むとウィルフレッドの頬をサラリと撫でる。
「副騎士団長様、騎士の妻たる者、夫の汗や砂汚れくらい気にしていては務まりませんわ。身一つで国を守ってくれているのですもの、感謝すれども嫌悪など抱くはずがありません。それに・・・あなたが愛する女もきっと同じでしてよ?」
レティシアにじっと見つめられ、ソルディオはしまったとたじろく。
「ウィル、たくさん汗かいたわね?」
「・・・あぁ、汗臭いのにすまん・・・」
そう言いながらも、ウィルフレッドはレティシアを抱く力を緩めることはなかった。成り行きを見守っていた騎士達はレティシアの発言に驚くが、さらに驚かされる事になる。
「ウィル、一緒に湯あみしましょう?さっぱりするわよ」
「あぁ」
返事をしたウィルフレッドはレティシアの身体を抱き上げた。そして胸に顔を埋めてぐりぐりと押し付けた。騎士達は唖然としていた。砂まみれで汗臭い夫がベタベタしてきても嫌悪することもなく、挙句一緒に湯あみをしようと言ったのだ。自分達は妻に、婚約者に、恋人に、こんなに優しくされた事があっただろうかと、なんだか虚しくなった騎士達だった。
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