騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

agapē【アガペー】

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【クレイドルside】愛しき我妻とこれから

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【クレイドルside】

まったく面白いものが見れたな
ゲオルグから若くして騎士団長の座に着き、皆からも一目置かれる存在だと聞いていたが、女1人でああもなるとはな・・・
だが俺も人の事は言えないな
俺もナタリアしか愛せなかった
ナタリア以外いらないと思っていた
あんなに人前で堂々と甘えたりはしていなかったと思う・・・多分
ナタリアは現国王の妹、生きていれば、つまりのところ王妹だった
俺は大した領地もない名の知れない子爵家の出
15歳で王都の騎士団に入り剣技を磨いていた
ある時、街の外れで立ち往生している馬車を助けた事があった
暗くなり始めた時間に、危ないと馬車に乗っていたご令嬢を先に安全なところへ運ぶことになった
それがナタリアだった
王家の家紋のない馬車でお忍びで出かけていたらしい
一緒に馬に乗せるからと言い声をかけると、降りてきたのは金の髪の美しい女性だった
一目惚れ
だが後に彼女が王女だと知って手に入らない存在なのだと酷く落ち込んだものだ
あのまま王都にいるままでは何も功績が上げれぬまま、たくさんの騎士に埋もれて近くに行く事さえ叶わなかっただろう
だから俺は決意した
いっそ辺境に行き、功績を上げて名の知れた騎士になろうと
俺はがむしゃらに頑張った
結果辺境伯とは縁もゆかりもない俺だったが、功績を積み上げた俺に、子のいなかった辺境伯が当主の座を継いで欲しいと養子に入る事になった
さすれば、それを知った当時の国王が何か望みはあるかと聞いてきた
もちろん望みは一つだが流石の俺もナタリアが欲しいなどとは言えなかった
だから言った


「初恋の女性に求婚する権利をくださいと」


国王陛下は、勝手にすればいいだろうと首を傾げていたが、まさか自分の娘の事だとは露にも思ってなかったようだった


「お父様、功績にはきちんとした褒美を与えるべきよ?忠誠心を高めたいなら尚のこと。彼には辺境を守り育てて貰わなければなりませんわ。ですから提案がありますの」


その時のにこりと笑ったナタリアの美しさ・・・今でも鮮明に覚えている


「提案とは何だ?」

「はい、彼に受け取って欲しい褒美がありますの。彼に拒否権はないわ。クレイドル・アンバー辺境伯様、あなたには結婚してもらいます。これは王家からの命令です」

「ま、待ってください!俺は!」


あの時は大層焦った
だって俺が好きなのは目の前で、意気揚々と俺に結婚の命を下そうとしているこの人本人なのだから


「拒否権はないと言ったでしょう?」

「し、しかし・・・」

「はい、これにサインなさい」

「ま、待ってください!サインは・・・は、はぁ!?」


差し出された婚姻届の書類の相手の欄にはすでにサインがなされていた
そしてその名を見て驚いた俺は変な声をあげてしまったのだ
そのサインは紛れもなく目の前の人の名だったのだから
美しく気高く、手を伸ばしても届かない存在だった彼女・・・


「何のご冗談です・・・」

「冗談なんかじゃないわ。本気よ」

「・・・御身を褒美として差し出すなどと!」

「ふふっ、それはあくまで表向きね。本当は・・・私、あなたに一目惚れしたの。だから、貰ってくれなきゃ泣いちゃうわ」

「・・・一目・・・惚れ!?お、俺にですか!?い、いや、俺も!俺も何ですっ!」






信じられなかった
ナタリアが俺に一目惚れをしていたと言うのだ
互いに一目惚れだったとは驚いたが
もっと驚いた人物が近くにいた




「ま、待たんか!まさか、褒美とは、ナタリア自身の事を言っているのか!?だ、だめだ!ナタリアには辺境などではなく、もっといい所に輿入れして欲しくて、他国との縁談を進めているんだぞ!」

「あら、お父様、もっといい所ってどこなんですの?私にとってはアンバー辺境伯の所が一番いい所なのよ?それ以上にどこがあるって言うの?私を政治の駒に使おうなんて甘いわね。今どきね、王の命令は絶対なんてないわ。私の幸せは私自身が掴んでみせるの。だから邪魔しないでくれる?」

「ナ、ナタリア・・・私はお前の幸せを願って!」

「あら、私の幸せを願うなら、娘の願いを叶えるべきね。お願いを聞いてくれないお父様なんか嫌いよ?」

「うっ・・・」




俺はあっけにとられた
他国の王族との縁談が持ち上がっていたというナタリア
だが、彼女は俺を選んだのだ
もう、誰にも渡すものかと、俺のものだと示すように、彼女の身体を抱き上げ宝物のように扱った





「クレイドル様、私を辺境に連れ帰って」

「えぇ、仰せのままに」




この時俺は誓ったんだ
数多の条件がいい男達の中から俺を選んでくれた
なら、俺はナタリアの為に、辺境をよくしていこうと
それからの俺はとにかく隣国との争いを鎮静化させる事を念頭に張り切っていた
それから、ナタリアとの間に唯一産まれたのが娘のエルサだ
エルサは色そのものは全て俺をの色を引いているが、器量の良さと美しさはナタリア似だ
成長と共にナタリアに似ていった
ナタリアは辺境に来てニ年で儚くなってこの世を去った
産後の肥立ちが悪く、寝台の住人と化していた
そのまま帰らぬ人となったのだ
悔しくて寂しくて辛くて
でも、ナタリアが見ていてくれるからと
頑張らねばと自分を奮いたたせた
たった二年だったが俺は幸せだった
ナタリア、見ていてくれているか?
エルサは真っ直ぐな女に育った
自慢の娘だ
いずれエルサも伴侶を得る
親としては複雑だが、いい男を見つけて欲しいと思っているんだ
あの騎士団長みたいに目の前でベタベタとされると流石に堪えるかも知れんが・・・
まぁ、愛されてる故だから我慢はするつもりだ
その為にもこの辺境を守り抜かなくてはならない
隣国の動きを常に気にして神経を尖らせておかなければならないこの辺境を
少しでも変えることができれば
隣国の宰相殿も随分疲弊しているようだしな
国を壊して欲しいか・・・
何かが大きく動く気がする



ナタリア・・・
俺はまだそっちに行けそうにない
辺境とこの国の末を見守らなければな
だから待っててくれ
俺は今だってお前だけを愛している
それはこれからもだ




俺はな・・・




生まれ変わってもまたお前と一緒にいたい
どんな形であっても
またナタリアと共に










「・・・まさか・・・ナタリアなのか?」





ーーーーーーーーーーーーーーーー

次回

【レガルドside】

一筋の希望



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