上 下
262 / 544

休暇一日目⑧狭いが故の至福

しおりを挟む


湯あみも済ませ、宿で出た夕食に舌鼓をうつと明日も朝から出発する事を考え、早めに就寝することにした二人。いそいそと寝台の中へと入っていこうとするレティシアを見て、ウィルフレッドはまたしても拗ねた表情で見ている。さながら小さな子どものようだ。


「どうしたの?」

「一緒がいい」

「狭いんだから仕方ないわ」

「・・・」


むぅっと唇を尖らせていたかと思えば、何かを思いついたようで、ウィルフレッドはレティシアの手を自分のほうに引き寄せた。


「どうしたの?」

「こうすればいいだろう?」


ウィルフレッドは空いていたもう一台の寝台に天井を仰ぐように仰向けに寝転がると、レティシアの腕を引いた。


「ちょ、ちょっとウィル!?」

「あぁ・・・これでいい。安心する」

「え、えぇ?このまま寝るつもりなの?」

「あぁ」


レティシアは困惑していた。二人で並ぶには寝返りでも打てば落ちてしまいそうな狭い寝台。ウィルフレッドは仰向けに寝転がると、自分に覆い被せるようにレティシアの身体を乗せた。そのままぎゅっと抱きしめると、レティシアの頭の上から髪に頬を擦り寄せていた。


「重くないの?」

「全然」

「二台あるんだから、ゆっくり寝ればいいのに」

「嫌だ。これがいい」

「・・・わかったわ」


説得するのは無理そうだと、レティシアは早々に諦めて苦笑する。いつも一緒に寝ている事に加えて、結婚式を邪魔され、レティシアを失うかもしれない、捨てられるかもしれないと自暴自棄なったウィルフレッドは、少しでも離れることが辛く、今まで以上に眠れなくなっていた。少しでも姿が見えなかったり、存在が感じられないと、自然に涙が流れてくる。そんな状態になると、さらに離してもらえなくなる。だったら、このままされるがままになっていたほうが、多少は良いというものだ。


「シア・・・どんな状況であっても、別々に寝るなんて、もう考えられない」

「そんなに?」

「あぁ、シアと出会う前にはなんともなかったのにな・・・5歳の頃には一人で寝ていたし」


ウィルフレッドはレティシアから香る石鹸の匂いをすんすんと嗅いでいたが、しばらくすると収まった。どうしたのかと見上げてみると、嬉しそうな顔ですやすやと眠っている夫がいた。


「仕方ない人ね。でも、嫌いにはなれないわ。私も・・・あなたの鼓動を聞くと安心するもの。あの時・・・刺されて意識が戻らなかった時・・・どれだけ怖かったか。この鼓動が止まってしまうかもしれないと思うことがどれだけ恐ろしかったか・・・よくわかるわ」


レティシアはウィルフレッドの鼓動を確かめるように、胸に耳を当てて聞いていた。気付けばいつのまにか眠ってしまったようだ。その日は、ウィルフレッドが途中で飛び起きることはなかった。疲れからなのか、いや、一晩中レティシアの重みと温もりを感じていられたからであろうと思う。



ーーーーーーーーーーーーーーーー

次回

【ウィルフレッドside】

俺の妻は・・・世界一いい女だ




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【本編完結】隣国が戦を仕掛けてきたので返り討ちにし、人質として王女を娶ることになりました。三国からだったのでそれぞれの王女を貰い受けます。

しろねこ。
恋愛
三国から攻め入られ、四面楚歌の絶体絶命の危機だったけど、何とか戦を終わらせられました。 つきましては和平の為の政略結婚に移ります。 冷酷と呼ばれる第一王子。 脳筋マッチョの第二王子。 要領良しな腹黒第三王子。 選ぶのは三人の難ありな王子様方。 宝石と貴金属が有名なパルス国。 騎士と聖女がいるシェスタ国。 緑が多く農業盛んなセラフィム国。 それぞれの国から王女を貰い受けたいと思います。 戦を仕掛けた事を後悔してもらいましょう。 ご都合主義、ハピエン、両片想い大好きな作者による作品です。 現在10万字以上となっています、私の作品で一番長いです。 基本甘々です。 同名キャラにて、様々な作品を書いています。 作品によりキャラの性格、立場が違いますので、それぞれの差分をお楽しみ下さい。 全員ではないですが、イメージイラストあります。 皆様の心に残るような、そして自分の好みを詰め込んだ甘々な作品を書いていきますので、よろしくお願い致します(*´ω`*) カクヨムさんでも投稿中で、そちらでコンテスト参加している作品となりますm(_ _)m 小説家になろうさんでも掲載中。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

【完結】第三王子殿下とは知らずに無礼を働いた婚約者は、もう終わりかもしれませんね

白草まる
恋愛
パーティーに参加したというのに婚約者のドミニクに放置され壁の花になっていた公爵令嬢エレオノーレ。 そこに普段社交の場に顔を出さない第三王子コンスタンティンが話しかけてきた。 それを見たドミニクがコンスタンティンに無礼なことを言ってしまった。 ドミニクはコンスタンティンの身分を知らなかったのだ。

お認めください、あなたは彼に選ばれなかったのです

めぐめぐ
恋愛
騎士である夫アルバートは、幼馴染みであり上官であるレナータにいつも呼び出され、妻であるナディアはあまり夫婦の時間がとれていなかった。 さらにレナータは、王命で結婚したナディアとアルバートを可哀想だと言い、自分と夫がどれだけ一緒にいたか、ナディアの知らない小さい頃の彼を知っているかなどを自慢げに話してくる。 しかしナディアは全く気にしていなかった。 何故なら、どれだけアルバートがレナータに呼び出されても、必ず彼はナディアの元に戻ってくるのだから―― 偽物サバサバ女が、ちょっと天然な本物のサバサバ女にやられる話。 ※頭からっぽで ※思いつきで書き始めたので、つたない設定等はご容赦ください。 ※夫婦仲は良いです ※私がイメージするサバ女子です(笑)

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年12月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、番外編を追加投稿する際に、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

処理中です...