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休暇五日目②隣の部屋の男

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出発の準備をしていた二人の元へ白髪混じりの初老の男。男は話をする時間が欲しいと言ってきた。


「話・・・俺達も暇ではないからな」

「す、少しだけでいいんです!」


神妙な面持ちで、必死に食い下がる男に、レティシアが動いた。


「ウィル、話、聞いてみましょうよ。随分と切羽詰まっているみたいだわ」

「だが・・・」

「聞いてみてから判断してもいいんじゃない?何か有益な話かもしれないわ」

「・・・わかった。だが、ここでは人目につく。どこかいい場所は・・・」

「ウィル、だったら昨日見た草原に行きましょうよ。ブルーノも喜んでいたし、あそこは人の気配もなかったわ」

「そうだな」


ウィルフレッドとレティシアが昨日、宿屋に着く少し前に開けた草原を通り掛かり、長旅を頑張る愛馬のブルーノを労う為に寄った場所だった。二人はブルーノの手綱をひきながら歩き、その後を男が続いて歩く。すぐに目的の場所にたどり着いた。


「風が気持ちのいい場所ですな」

「えぇ、昨日見つけていい場所ねって話してたの。それで?お話とはどのような事ですの?」


初老の男は少し考えこむような様子を見せ、おずおずと口を開いた。


「お二人を高貴な方と見越して頼みがあるのです」

「高貴?俺達がそう見えると?」

「あ、いや・・・見た目もそうなんだが・・・昨日の会話を聞いてしまいまして」

「盗み聞きか!?」

「ち、違う!部屋でくつろいでいると隣に宿泊客が入ってきたのに気付いて・・・それが貴方達です」

「ウィル、怖いわよ?・・・それで?私達の会話、何をお聞きになられたのかしら?」

「・・・陛下に考えを聞いてみると・・・近しい方々なのだと確信を持ちました」

「そう・・・陛下に合わせて欲しいと?」

「そうしたいのは山々なんですが、私もそう遠くへは行けません。それに、私を知れば謁見をするなど許可できないと判断されるかと・・・」


レティシアに宥められ一度は表情の戻っていたウィルフレッドの眉間に再度皺がよる。


「どういうことだ?」

「はい、私は・・・ソハナスの者なのです・・・」

「ソハナスだと・・・?」

「ソハナスで宰相を務めております、レガルド・ホレーシアです」

「国の中枢である宰相がなぜこのようなところにいるんだ・・・」

「単刀直入に申します。ソハナスは・・・もう国として機能していません。貴方様を見込んで、お願いがあるのです。どうか・・・どうか、ソハナスを、国を壊していただけないだろうか!」


レガルドの様子は随分と必死で、最後の頼みの綱だとでも訴えているように思えた。






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次回

王は・・・執着しておられる・・・



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