297 / 543
休暇五日目②隣の部屋の男
しおりを挟む出発の準備をしていた二人の元へ白髪混じりの初老の男。男は話をする時間が欲しいと言ってきた。
「話・・・俺達も暇ではないからな」
「す、少しだけでいいんです!」
神妙な面持ちで、必死に食い下がる男に、レティシアが動いた。
「ウィル、話、聞いてみましょうよ。随分と切羽詰まっているみたいだわ」
「だが・・・」
「聞いてみてから判断してもいいんじゃない?何か有益な話かもしれないわ」
「・・・わかった。だが、ここでは人目につく。どこかいい場所は・・・」
「ウィル、だったら昨日見た草原に行きましょうよ。ブルーノも喜んでいたし、あそこは人の気配もなかったわ」
「そうだな」
ウィルフレッドとレティシアが昨日、宿屋に着く少し前に開けた草原を通り掛かり、長旅を頑張る愛馬のブルーノを労う為に寄った場所だった。二人はブルーノの手綱をひきながら歩き、その後を男が続いて歩く。すぐに目的の場所にたどり着いた。
「風が気持ちのいい場所ですな」
「えぇ、昨日見つけていい場所ねって話してたの。それで?お話とはどのような事ですの?」
初老の男は少し考えこむような様子を見せ、おずおずと口を開いた。
「お二人を高貴な方と見越して頼みがあるのです」
「高貴?俺達がそう見えると?」
「あ、いや・・・見た目もそうなんだが・・・昨日の会話を聞いてしまいまして」
「盗み聞きか!?」
「ち、違う!部屋でくつろいでいると隣に宿泊客が入ってきたのに気付いて・・・それが貴方達です」
「ウィル、怖いわよ?・・・それで?私達の会話、何をお聞きになられたのかしら?」
「・・・陛下に考えを聞いてみると・・・近しい方々なのだと確信を持ちました」
「そう・・・陛下に合わせて欲しいと?」
「そうしたいのは山々なんですが、私もそう遠くへは行けません。それに、私を知れば謁見をするなど許可できないと判断されるかと・・・」
レティシアに宥められ一度は表情の戻っていたウィルフレッドの眉間に再度皺がよる。
「どういうことだ?」
「はい、私は・・・ソハナスの者なのです・・・」
「ソハナスだと・・・?」
「ソハナスで宰相を務めております、レガルド・ホレーシアです」
「国の中枢である宰相がなぜこのようなところにいるんだ・・・」
「単刀直入に申します。ソハナスは・・・もう国として機能していません。貴方様を見込んで、お願いがあるのです。どうか・・・どうか、ソハナスを、国を壊していただけないだろうか!」
レガルドの様子は随分と必死で、最後の頼みの綱だとでも訴えているように思えた。
ーーーーーーーーーーーーー
次回
王は・・・執着しておられる・・・
1
お気に入りに追加
334
あなたにおすすめの小説
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
冷血皇帝陛下は廃妃をお望みです
cyaru
恋愛
王妃となるべく育てられたアナスタシア。
厳しい王妃教育が終了し17歳で王太子シリウスに嫁いだ。
嫁ぐ時シリウスは「僕は民と同様に妻も子も慈しむ家庭を築きたいんだ」と告げた。
嫁いで6年目。23歳になっても子が成せずシリウスは側妃を王宮に迎えた。
4カ月後側妃の妊娠が知らされるが、それは流産によって妊娠が判ったのだった。
側妃に毒を盛ったと何故かアナスタシアは無実の罪で裁かれてしまう。
シリウスに離縁され廃妃となった挙句、余罪があると塔に幽閉されてしまった。
静かに過ごすアナスタシアの癒しはたった1つだけある窓にやってくるカラスだった。
※タグがこれ以上入らないですがざまぁのようなものがあるかも知れません。
(作者的にそれをザマぁとは思ってません。外道なので・・<(_ _)>)
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※作者都合のご都合主義です。作者は外道なので気を付けてください(何に?‥いろいろ)
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
貴方を捨てるのにこれ以上の理由が必要ですか?
蓮実 アラタ
恋愛
「リズが俺の子を身ごもった」
ある日、夫であるレンヴォルトにそう告げられたリディス。
リズは彼女の一番の親友で、その親友と夫が関係を持っていたことも十分ショックだったが、レンヴォルトはさらに衝撃的な言葉を放つ。
「できれば子どもを産ませて、引き取りたい」
結婚して五年、二人の間に子どもは生まれておらず、伯爵家当主であるレンヴォルトにはいずれ後継者が必要だった。
愛していた相手から裏切り同然の仕打ちを受けたリディスはこの瞬間からレンヴォルトとの離縁を決意。
これからは自分の幸せのために生きると決意した。
そんなリディスの元に隣国からの使者が訪れる。
「迎えに来たよ、リディス」
交わされた幼い日の約束を果たしに来たという幼馴染のユルドは隣国で騎士になっていた。
裏切られ傷ついたリディスが幼馴染の騎士に溺愛されていくまでのお話。
※完結まで書いた短編集消化のための投稿。
小説家になろう様にも掲載しています。アルファポリス先行。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる