騎士団長様からのラブレター ーそのままの君が好きー

agapē【アガペー】

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休暇四日目⑨宿屋のテラスで

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北の辺境にほど近い街。イズヴァンドからそう遠くないこの地は活気に溢れていた。陽も傾き始めた頃、街にある一軒の宿屋を見つけた。食事と湯あみも済ませ、レティシアは部屋に備え付けられているテラスで夜風にあたっていた。


「シア?ここにいたのか」

「夜風が気持ちよかったから」

「そうか・・・星、綺麗だな」

「えぇ・・・」


元気のないレティシアの顔を、横に並び立つウィルフレッドが覗き込む。


「どうした?」

「・・・少し考え事」

「何を考えてたんだ?」

「・・・レイバン様の事」

「俺以外の男の事を考えてるなんて、嫌だ」


ウィルフレッドはレティシアの背後に回ると後ろからぎゅっと抱きしめ、肩に額を押し付けた。


「そう言うと思った」

「なんだ?揶揄ったのか?」

「揶揄ったわけじゃないわ。私が考えてたのは、イズヴァンドの事」

「・・・あぁ・・・随分と寂しい街だったな」

「陛下はイズヴァンドをどうなさるおつもりかしら」

「そこはまだ考えなどは聞いてないな。戻ったらお気持ちだけでも聞いてみる」

「えぇ、どうにかしたい、けど・・・どうすればいいのか、いい案が浮かばない」

「また昔みたいに・・・活気が戻ればいいな」


ウィルフレッドとレティシアは夜空に瞬く数多の星を眺めながら、昼間に見たイズヴァンドの現状を思い出していた。


「・・・全て失った・・・だからこそ、全て一から作る・・・」

「シア?」

「そうだったらいいなって思ったの」

「一からか・・・きっといい街ができるな。幸せに満ちた街だ」

「ふふっ、どこよりもいい街になるわ」


抱きしめていた手を少し緩めると、ウィルフレッドはレティシアの顔を覗き込んだ。

「そろそろ中に入ろう。冷えてしまうぞ?」

「そうね。でも、冷えても温めてくれるんでしょう?」

「もちろんだ」


ウィルフレッドはふわりと笑うと、レティシアを抱え、部屋へとうううう入る。そのまま寝台へと運び、静かに下ろすと、自らも沿うように寝台へと横になった。少し冷えてしまったレティシアを、温めるために後ろからしっかりと抱きしめる。この役目は自分だけのものだと確認するかのように、同じシャンプーの匂いがするレティシアの髪に鼻先を埋めていた。


「さぁ、今日はもう寝よう。いろいろあったし、たくさん移動もした。疲れただろう?」

「えぇ、明日もいろいろありそうだわ」

「確かにな」


二人はふふっと笑い合うと、どちらともなく寝息を立て始め、幸せな気分で深い眠りへと落ちていった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーー

次回

【???side】

独り占めできないことに嫉妬でもしているのだな


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