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休暇二日目①いつもと変わらぬだが違う朝
しおりを挟む胸元にかかる息に、虚な意識が覚醒していくのを覚える。どうしても一緒に寝たくて、離れたくなくて。レティシアを引き上げて自分の上に覆いかぶさるように乗せたのを思い出した。自身が眠ってしまって、抱きしめた腕が緩んでも、レティシアは動かず一晩中そのままでいてくれたようだった。寝辛くなかっただろうか、体は痛くないだろうか。ウィルフレッドは、そんな心配だけをしていた自分に気がついた。ここしばらくは、眠れず夜中に何度も飛び起きては、レティシアがいるかを確かめ安堵して眠るという事を繰り返していた。だが、昨晩は一度も飛び起きるような事もなく、一晩中眠っていたようだった。レティシアが昨日、眠る前に放った言葉が何度も頭の中で繰り返し思い出された。
『あの時・・・刺されて意識が戻らなかった時・・・どれだけ怖かったか。この鼓動が止まってしまうかもしれないと思うことがどれだけ恐ろしかったか・・・』
ウィルフレッドが眠ってしまったと思って放たれたレティシアのつぶやき。それに加えてレティシアを自身の上に乗せた事で感じられたぬくもりと重み。そのおかげで一晩中安心していられたのだと実感した。レティシアが微かに動いたことで、朝日に照らされた銀の髪がサラリと落ちてきた。
「可愛い妻の寝顔が見えないな」
ウィルフレッドはふっと表情を緩めると、レティシアの髪をそっと手で梳いた。その感覚に、レティシアが身じろぎする。その様子がただただ可愛くて愛おしくて。いつまでも眺めていられるようだった。
「・・・ん・・・」
レティシアが眩しさに気付き目を覚ました。
「・・・おはよう・・・」
「おはよう。よく眠れたか?」
「えぇ」
「そうか」
「ウィルこそ眠れたの?」
「あぁ、ぐっすりな」
「重かったんじゃない?」
「いいや、むしろその重みで安心した。しばらくはこうやって寝たい」
「えぇ?毎日?」
「あぁ」
「わかったわ」
愛する妻は、こんな願いだって否定しない。ウィルフレッドはたまらずぎゅっとその身を抱きしめた。
愛しい婚約者は愛する妻になった。
二人で眠って、二人で朝を迎える。いつも通りと変わらぬ朝。だが、いつもと違う朝だった。互いの存在を確かめるように、鼓動を感じ、ぬくもりを感じ。これから先も、ずっとこの幸せを守りたい。そう心に思う朝だった。
ーーーーーーーーーーーーーー
次回
ウィルのよく知る人だった・・・と言う事ね?
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