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【ウィルフレッドside】俺の妻は

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師匠の所にか・・・
シアが起きてすぐに提案してきたのは、俺の師匠であり、前任の騎士団長でもあった、西の辺境伯ゲオルグ・カルスヴァに会いに行く事だった



「本当に行くのか?」

「えぇ、イザベラ様にも会いたいしね」

「師匠はともかく、イザベラ嬢・・・今は辺境伯夫人だな。会うのは反対だ」

「あの時の状態ならでしょう?辺境に行って何か変化があったのかこの目で見たいの。興味ではないわ。あんな奇行にでるまで一人の男性を愛していた人なのよ?辺境で耐えれるか心配なのと、馴染めているのかも気になるわ。もしもうまくいっていないようなら、王都へ戻すことも考えた方がいいと思ってるの」

「一度はシアを殺そうとした女だぞ?そこまで温情を与える必要はない。師匠が望んだから、今回は辺境に行く上で、師匠の妻になることで免れてやったんだ。本当ならば、刑に処してもよかったんだ」





あの時の事は忘れない
実際に刺されたのは俺だったからよかったものの、もしシアが刺されていたならば、なりふり構わずイザベラ嬢を切り捨てていただろうと思う
師匠が望まなければ、そのまま修道院に入れるか、強制労働所に送られるだけだっただろう





「ウィル、確かに刺された事をないことにはできないわ。ウィルだって痛い思いをしたのだから」

「俺の事はどうだっていいんだ。俺が刺されたのはたまたまで、本当はシアを狙っていたんだぞ?許せるわけないだろう」

「まぁまぁ、とにかく、ゲオルグ様が望まれたのですもの、悪い扱いはされてないとは思うの。それに、私、ウィルにちゃんと謝ってほしい」




シアの瞳は真剣だった
あの時は俺が怪我をして意識を失ってしまった事で、それ以来彼女には会っていない
そんな事どうだっていいのに
だけど、シアは許せないらしい
俺の妻は・・・俺の事が大好きなのか?
自惚れすぎもよくないな
シアが一緒にいてくれるだけでいいのに、求めすぎてはよくない





『二人とも随分と早かったのね?』




母上の言葉に、俺は揶揄われている事さえも気付いていなかった
こんな夫は嫌だと愛想をつかして出て行ってしまったのなら
俺の事を捨てて行ってしまったりしたら・・・
シアがどこまでも俺を許してくれるから
俺がいいと言ってくれるから俺は俺でいられる
やっぱり俺の妻になれるのはシアしかいないな
できれば早くちゃんとした夫婦に・・・その・・・シアの全てに触れることを許されたい
だが、俺はまだ、気持ちの整理がつかないでいる
結婚式を挙げれていない貴族の夫婦なんて、なんだか欠陥をかかえた夫婦のようだからだ
結婚式のやり直しをしたかったが、シアは当分無理だろうと言った
同じ参列者を集めるのも難しければ、緘口令が敷かれているとは言え、祝い事をやっていいものかと
確かにそれは一理ある
騎士団長である俺なら尚更だ
普通の令嬢なら、結婚に夢見る令嬢なら、そんな事許されなかっただろう
シアがシアだから・・・
緊張を強いられる辺境で育ったから
シアをとりまく全ての事で俺は許されている





しかし、ブルーノに乗って人前に出れば、必ずと言っていいほど視線を集めてしまうな
シアが可愛いのは認めるが、男どもはジロジロと見過ぎじゃないか?
もう俺の妻になったというのに、それでも狙ってくる男がいるのか・・・
いつまで経っても安心できないな
だが、そんな俺の不安を他所に、シアは言ってのけた





「ふふっ、私たちなりの結婚パレードね!」




あれには驚かされた
結婚式なんてどうでもいいとばかりに大して恨み言も言わなかったシア
きっと楽しみにしていたんだな
そんなシアの令嬢としての経歴に傷を負わせたのは俺だ
こんないい女に出会えた事が奇跡で、こんないい女を妻にできた俺を褒めたい
追いかけて、執着して・・・
叶わないと何度も挫けそうになった
だが、あの時の辛かった時期を耐えた俺を褒めてやりたい
いい女を見つけたなって
俺の人生の最大の幸運だったのだと思う
大勢の男が見惚れるシア
王子でさえも虜にし、国王から息子の嫁にと望まれるシア
選択肢はたくさんあった
だが、その中で、一番の好条件ではない10歳も歳の離れた俺を選んでくれた
格好いい騎士団長の俺が好き
格好いい姿を見たいなど、いつも言うが、それは本音ではない事は知っている
愚図って、拗ねて、面倒な俺をおだてるために言っているのはわかっている
俺の扱いがうまいのだ
本心ではないのはわかってはいるが、シアに言われると、嬉しくてつい言うことを素直に聞いてしまうんだ
俺は一生シアには叶わないんだろうな




街で宰相の娘であり、シアの学園での友人だというミリア嬢に偶然会った
俺は、他の令嬢の前では無駄にシアに甘くすると決めている
羨ましがられるのはもちろんだが、こんな事シアにしかしていないと思わせるためだ
俺がこんな事をするようになるなんてと、周りは大層驚くが、一番驚いているのは他でもない自分自身
別れ際に、シアがミリア嬢に向かって騎士様がとか大声で言っていたが、シアが気になってるとかではないよな!?
気になってそわそわしていたが、その答えは直ぐにわかった
ミリア嬢がとある騎士に恋をしているそうだ
学園に通っていた時、シアとミリア嬢は街で誘拐されかけた事があったらしい
そいつら、斬り殺してやる!
まぁ、その男達はすぐ捕まって牢に放り込まれたから心配はいらないと言っていたが・・・
俺の手で罰を与えたかったな
そして、その助けてくれた騎士達の指揮をとっていた一人の騎士にミリア嬢が一目惚れをしたと言うのだ
シアではなくてよかった・・・
本当によかった
ミリア嬢はその騎士の事が諦めきれず、縁談を全て断り続けているらしい
確かに前に、宰相が頭を抱えているとは聞いたことがあったが、そういう事だったのかと知った
ミリア嬢にはたくさんの縁談がひっきりなしに来ているらしい
なんと言っても宰相の娘
繋がりが欲しい貴族はたくさんいる
ミリア嬢はシアと違って夢見る少女みたいなところがあるから、恋愛結婚に憧れているのだろう
ましてや親友が目の前で政略でもなく、王子の求婚を断ってまで選んだ男と結婚したんだ
夢見るのもわからないでもない
その騎士は誰なのだろうか
俺が親しい騎士なら協力してやってもいいのだが・・・
シア曰く、それではダメなのだと
何がダメなのかちっともわからなかった
きっとミリアは運命的な出会いと運命に導かれるような恋愛を求めているわと言う
そんな奇跡を待っていたら、いつまで経っても結婚できないのではないかと心配になる
しかし、シアは、その騎士が誰なのか最後まで名前は教えてくれなかった
なんだか男の名を秘密にされたのは面白くない
だが、その後の一言でどうでもよくなった




「ウィルの奥さんになれて幸せよ」




たったその一言で、俺は幸せに浸れる
目の前の愛しい妻を逃すまいと、必死に毎日追いかける
横から奪われないようにと目を光らせる





途中の街で宿をとろうとしたが、どうにも商人や騎士達が利用するような宿しかなかった
貴族が利用するような立派な宿ではない
普通の貴族令嬢ならそれだけで嫌そうな顔をしそうだ
だが、シアはそんなのどうでもいいと言った
だが俺は全然よくない!
シアと一緒に寝たいのに、狭い寝台しか備えてないというじゃないか
一緒に寝れないのがどれだけ堪えるか・・・
しかし良い事を思いついた
横に寝れないのなら、シアを俺に乗せればいいんだ
膝の上に乗せるように、俺に抱きつくように抱きかかえて眠ればいい
案外それはよかった
シアの重みが安心へと変わっていった
抱きしめて眠るのも温もりは感じるが、その比じゃなかった
シアに頼られているようで、シアが俺にしがみ付いてきているようで、なんなら今後毎晩これがいいと思えたぐらいだ
気持ちよくなって、段々とまぶたが落ちてきた





「仕方ない人ね。でも、嫌いにはなれないわ。私も・・・あなたの鼓動を聞くと安心するもの。あの時・・・刺されて意識が戻らなかった時・・・どれだけ怖かったか。この鼓動が止まってしまうかもしれないと思うことがどれだけ恐ろしかったか・・・よくわかるわ」






意識を手放そうとしたときにシアがそうつぶやいた
その言葉を聞きながら夢の中へ・・・は行けなかった
嬉しすぎて目が覚めてしまった
シアが俺がいなくなる事が怖かった・・・
俺の鼓動が止まってしまうことが恐ろしかったといった
俺を必要としてくれている
好きなのは俺だけじゃない
初めてシアの本心を聞いた気がした
好きだ、愛しているとは言ってはくれるものの
いつも俺の方が気持ちが大きすぎやしないか、呆れられるのではないかとヒヤヒヤしていた
そんな心配いらないのだと言われたような気がした
はじめて心から許されたような気持ちになった
しばらくシアの寝顔を堪能していたが、温もりにウトウトしはじめ
気付けば眠ってしまっていた





明日もシアがいてくれる
不安に思っていた俺はどこへ
俺ばかりが好きじゃないとわかった今、何も不安に思うことはなかったのだと知った
起きたら目の前にシアがいる
そう確信が持てるから安心して眠れる
それからの俺は夜中に何度も焦って飛び起きる事はなくなった
だが、しばらくこの眠り方はやめられそうにもない
じゃないと、また焦って飛び起きてシアを探すんだろうな
俺はつくづく情けない男だ
だが、全て愛おしい妻が受け入れてくれる
だから俺は俺でいられる







俺の妻は・・・世界一いい女だ






ーーーーーーーーーーーーー

次回

しばらくはこうやって寝たい



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