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休暇一日目⑥宰相の娘ミリアとの遭遇

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王都の街を進んでいた所、近くに停まっていた馬車から一人の令嬢が駆け寄って来ているのが視界に入る。


「レティシア!」

「ミリアじゃない。こんな所でどうしたの?」

「それはこっちのセリフよ?私はただ街に買い物に来ていただけよ。アバンス団長様、ご無沙汰しています」

「あぁ、久しいな」


ウィルフレッドは、馬からひらりと降りると、レティシアを抱きかかえて下ろす。


「ところで、レティシア。これからどこか出かけるの?」

「えぇ、これから西の辺境へ行くわ」

「随分と遠出なのね?でも・・・よかったわ。思ったより元気で。心配してたのよ?結婚式ちゃんとあげれなかったじゃない?レティシア、落ち込んでるんじゃないかって」

「あぁ、心配させてごめんなさい。でもね、この通りピンピンしてるわ」

「レティシアらしいわ。それに、あなた達とっても目立ってるわよ?」

「知ってる。白馬だっていうだけで目を引くのに、乗るのは騎士団長ってみんな周知の事実だものね」

「結婚式あげれなかった悲劇の夫婦なのよ?みんなが気にして注目するに決まってるじゃない」

「ふふっ、まるで結婚パレードねって、さっき話していたところよ」

「全く、あなたって人は」


宰相の娘、ミリアは、仕方ないなぁと言わんばかりにため息をつきながら苦笑する。


「辺境まで時間かかるでしょう?気をつけてよね?後でたくさん話聞かせてよ。またお茶に誘っていいかしら?」

「えぇ、帰ったらまたお茶しましょう」


ウィルフレッドはまたブルーノの背にひらりと跨ると、軽々とレティシアを引き上げる。そしてお決まりの体勢へ。


「さながら白馬の王子様とお姫様ね」

「ふふっ、でもね、ウィルは物語の王子様ではないわ。私だけの王子様で、愛する夫なの」

「はいはい、砂糖が降ってきそうだわ」


苦笑するミリアに別れを告げ合図をするとブルーノがゆっくりと歩き出す。


「あっ!」

「どうした?」

「言い忘れていたわ」


レティシアはミリアに向かって大きな声で呼びかける。


「ミリア!あなたの騎士様とはどうなのよ!」

「ちょ、ちょっと、レティシア!大きな声で言わないでよ!」

「ミリアも素敵な人を捕まえなさいよね!」

「う、うるさぁい!!」


レティシアは楽しそうに、そして嬉しそうに笑っていた。ミリアの想い人は誰なのか。そう遠くない未来、一人の騎士の人生を変える出来事が起こる。踏み出せなかった男が・・・愛を知り、欲を知って、妻をぐずぐずに甘やかす。欲しい者ができた男はどこまでも貪欲になるのだが・・・二人を隔てる壁がある事をレティシアだけが知っていた。





ーーーーーーーーーーーーー

次回

って事は、あんたは騎士団長様かい!?






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