上 下
243 / 543

信じてくれる者

しおりを挟む


国王レオナルドの部屋から出たウィルフレッドは、ヴィンセントの側近であるウルスに付き添っていたコルテオの元に向かっていた。自分でもわかるほど、焦っていた。足早に向かうも足がもつれそうになる。


「ウィルフレッド!それで、どう・・・?」

「陛下は無事だ」

「よかったぁ・・・」

「少し怪我はされているが、命に別状はない。ヴィンセント殿下も無事に私室へと戻られている。ウルスの容態はどうだ?」

「さっきまでだいぶ痛がってはいたが、医師が飲ませた薬が効いたのが、眠っているよ」

「そうか・・・」

「奴らにやられて、左腕が折れているらしい。少し熱が出ているようだが、利き腕ではなかったし、大きな問題はないだろう。眠る前に仕切りにヴィンセント殿下の心配をしていたよ。それと・・・剣を習いたいのだと」

「剣を?」

「あぁ、彼は、マクシミリオンとオリバーが側近から外されたせいで、急遽側近になったばかりだったからな。侯爵家という爵位で選ばれただけなんだと自笑していたさ。本当は城の文官になりたかったんだと言っていた。剣なんて触ったこともなかったのかもしれないな。きっと、今回の事で己の無力さを知ったのだろう」

「ウルスが目覚めたら、近衛で手の空いた奴が面倒を見ると言ってみたらどうだ?まずはコルテオが」

「俺が?俺が相手になっても何も身につかないぞ?」

「何もやったことのない素人が、最初から屈強な騎士相手に稽古なんて無理だろう?」

「まぁ・・・そうかもな」

「お前ならわかるはずだ。お前だってそうだったんだから」

「確かにな」


コルテオはウルスの寝顔を見ながら静かに苦笑した。


「コルテオ、レイバンに聞き出したが、この度のソハナスからの侵攻はなかった」

「何だって!?じゃあ、俺は辺境伯に嘘の情報をもたらしたことになるじゃないか・・・」

「いや、それが、あながち嘘でもないんだ」

「どう言うことだ?」


真剣な顔つきのウィルフレッドを見上げるようにコルテを表情を伺う。


「ソハナスからの侵攻はなかったが、暴れたいだけの野盗と、レイバン達のように、怒りのぶつけ先を失っていた奴らが集まって奇襲を仕掛けるなどと言っていたらしい。ただ、そいつらは素人の集まりではあるが、不意をつかれては誰かが犠牲になったかもしれん。少しでも犠牲を減らせた事、お前は誇ってもいいぞ?」

「誇る・・・か」

「この事は陛下が公にはしないと言われた。また・・・お前の功績が表に出ないままとはな・・・」

「いいんだよ。信じてくれる者がいればそれでいい。お前が信じてくれるなら、それでいい」

「あぁ、お前は国にとって必要な人間だ」


その言葉にコルテオの瞳は微かに潤んだように見えた。


「コルテオ、事件の収束にもう一度仕事だ。北の辺境の状況確認だ」

「あぁ、わかった」


寝ているウルスを医師に託し、ウィルフレッドとコルテオは誰も犠牲になっていない事を願い、騎士団長の執務室へと向かっていった。




ーーーーーーーーーーーーーーー

次回

【クレイドルside】

ソハナスの軍だとしてもお粗末すぎる








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

『番外編』イケメン彼氏は年上消防士!結婚式は波乱の予感!?

すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は年上消防士!・・・の、番外編になります。 結婚することが決まってしばらく経ったある日・・・ 優弥「ご飯?・・・かぁさんと?」 優弥のお母さんと一緒にランチに行くことになったひなた。 でも・・・ 優弥「最近食欲落ちてるだろ?風邪か?」 ひなた「・・・大丈夫だよ。」 食欲が落ちてるひなたが優弥のお母さんと一緒にランチに行く。 食べたくないのにお母さんに心配をかけないため、無理矢理食べたひなたは体調を崩す。 義母「救護室に行きましょうっ!」 ひなた「すみません・・・。」 向かう途中で乗ったエレベーターが故障で止まり・・・ 優弥「ひなた!?一体どうして・・・。」 ひなた「うぁ・・・。」 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とは何の関係もありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

彼女が心を取り戻すまで~十年監禁されて心を止めた少女の成長記録~

春風由実
恋愛
当代のアルメスタ公爵、ジェラルド・サン・アルメスタ。 彼は幼くして番に出会う幸運に恵まれた。 けれどもその番を奪われて、十年も辛い日々を過ごすことになる。 やっと見つかった番。 ところがアルメスタ公爵はそれからも苦悩することになった。 彼女が囚われた十年の間に虐げられてすっかり心を失っていたからである。 番であるセイディは、ジェラルドがいくら愛でても心を動かさない。 情緒が育っていないなら、今から育てていけばいい。 これは十年虐げられて心を止めてしまった一人の女性が、愛されながら失った心を取り戻すまでの記録だ。 「せいでぃ、ぷりんたべる」 「せいでぃ、たのちっ」 「せいでぃ、るどといっしょです」 次第にアルメスタ公爵邸に明るい声が響くようになってきた。 なお彼女の知らないところで、十年前に彼女を奪った者たちは制裁を受けていく。 ※R15は念のためです。 ※カクヨム、小説家になろう、にも掲載しています。 シリアスなお話になる予定だったのですけれどね……。これいかに。 ★★★★★ お休みばかりで申し訳ありません。完結させましょう。今度こそ……。 お待ちいただいたみなさま、本当にありがとうございます。最後まで頑張ります。

つがいの皇帝に溺愛される皇女の至福

ゆきむらさり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡 〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。 完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗 ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️ ※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

王太子ハロルドの淫らで優雅な王宮事件簿 ~背徳の王子はすべての愛を支配する~

月夜野繭
恋愛
「さぁ、私を凌辱せよ」 王太子ハロルドは一見地味で穏やかな好青年。けれど、閨では淫らで傲慢な支配者に豹変する。 いつものように腹心の近衛騎士たちへ見せつけながら妻を抱いていたハロルドだが、今夜は別のプレイを企んでいて――? 強烈なカリスマで周囲の人間を魅了し、淫蕩のかぎりを尽くす背徳の王子ハロルド。その日々を彩るいかがわしい事件をここに記録する。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ※「背徳の王子は支配する」:男性4人、女性ひとりの複数プレイ(近衛騎士×王太子×王太子妃) ※「堕落の王子は耽溺する」:義父と嫁のNTRプレイ(辺境伯×義理の息子の妻←義理の息子) ※1話ごとの読み切りです。ハロルドにまつわる短編集として新作ができたら追加する予定……です。 ※ムーンライトノベルズにも掲載しています。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

処理中です...