238 / 544
滴り落ちる血
しおりを挟む過去を語ったレイバンは、国王レオナルドの首に当てていた刃先をぐっと押し込み血を流れさせた。その血はレオナルドの服を赤く染め上げていく。
「貴様!父上に何という事を!!」
「これぐらいどうしたと言うのです?死ぬわけでもあるまいし」
「国王にこんなことをして、許されると思っているのか!」
「誰なら許されるんですか?私の両親なら殺しても許されるのですか?」
「今はそんな事言っていないだろう!」
「そんな事?私の両親はそんな事で済まされるような事でしたか・・・」
「とにかく剣を下ろせ!」
「ヴィンセント、黙れ」
「っ!?」
弾かれるようにレオナルドの顔を見たヴィンセント。その顔には焦りもなく、全てを受け入れているようで、威厳さえ感じた。
「殿下、無力ですね?もっと武力を磨いていたら、その者達の拘束ぐらい簡単に解けるでしょうに。全く、昔の私を見ているようですよ。あなた方王族には報いを受けてもらいますよ」
「何故こんな事をする!父上が何をしたというのだ!王族がお前に何をしたというのだ!」
「何をした?えぇ、何もしていませんよ?そう・・・何もしてくれなかった。あなた方は我々を見捨てたんです。戦って終わり・・・勝利したのでめでたしで終わったのでしょう?その後生き延びた私達は・・・生きたことを後悔する日々でした。せめてもの罪滅ぼしに、領地の復興に手を貸して頂けたなら・・・こんな恨みがましい思いも、固唾も少しは降りたでしょう。すまなかったと一言言っていただければ・・・いや、そんな事では許せるはずもないでしょうが・・・そんな事すらしなかったのですから。戦を仕掛けられた被害者ですか?怪我一つしなかったあなた方が被害者?笑えませんね。イズヴァンドの民は王家を、王族を憎んでいます。私がこうしなくとも、誰かがいずれしていたでしょう」
「レイバンよ、当時は私もまだ未熟であった。先王である父が床に臥せって、思ったよりも早くに王位に就くことになった。その隙を敵国に突かれてしまったのだ。私が未熟だった故だ」
「父上、謝らなくとも!父上は何も悪くない!私だって、今、父上が王位を譲られた年齢と同じです。だとしたら、自信などありませんよ!父上は何も悪くない!」
「黙らんか、ヴィンセント!」
「っ!!」
つい先ほどまで感情の見えない落ち着いた表情のレオナルドだったが、打って変わってその顔は怒りを露わにしていた。
「ヴィンセントよ、お前は王たる器は持っている。だがな、王とは絶対の存在ではないのだ。民がいて、貴族達が支えてくれ、はじめて王として成り立つのだ。それを何だ?王がいるから国が成っているとでも思っているのか?レティシア嬢の言う通りだな・・・お前はまだまだ勉強不足のようだ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
次回
そして、私の事を一生憎んで覚えていてくれればと
1
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった
海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····?
友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる