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【クレイドルside】真夜中の通信
しおりを挟む今日も平和な一日だったと、澄み渡る空気を吸いながら、星のまたたく夜空を見つめる。
「ナタリア・・・俺は上手くやれているか?ちゃんと見ていてくれてるか?」
北の辺境領の領主である、クレイドル・アンバーは、夜空を見上げながら感傷に浸る。クレイドルの妻である、降嫁した王女ナタリアは、一人娘を産んでから、一年も経たないうちに儚くなってしまった。二人が夫婦として過ごしたのはたった二年の事だった。だが、誰よりも互いを愛し、ナタリアが亡くなってからも、クレイドルは誰とも再婚はしなかった。ナタリアの残した宝である、娘のエルサを不器用ながらも、父親として愛情を与え育てていった。
「エルサもな・・・大きくなったぞ。もう18なんだ・・・が・・・少々逞しく育てすぎたようだ・・・きっと、君のような可憐な女性には・・・ほど遠いな・・・」
クレイドルは、申し訳なさそうな笑顔を空に向ける。
その時だった。
部屋に不釣り合いな金属の塊のような箱から、初めて聞く音が鳴る。
「・・・感傷に浸っている場合ではないようだな」
以前に辺境に遠征で訪れた王都の騎士団より預かった通信機の音だった。今まで一度も聞いたことがなかった音が、初めて鳴り、緊張の面持ちで通信機を作動させる。
「辺境伯?クレイドル殿、聞こえますでしょうか?」
「あぁ、私だ。クレイドル・アンバーだ。しっかり聞こえている」
「よかった!私は、王都の近衛騎士で、この通信機の開発者でもあります、コルテオ・ハッサルと申します!挨拶もそこそこに申し訳ないのですが、火急の知らせでございます!」
「こんな時だ、挨拶など気にしない。それで、急ぎの知らせとはなんだ?」
これから通信機から発せられるであろうコルテオの声を聞き漏らすまいと、クレイドルは耳をかたむける。
「はい、深夜ではありますが、隣国、ソハナスから、侵攻ありとの情報が入りました。辺境伯には申し訳ないが、とにかく足止めをして貰いたい」
「足止め?戦うのではなくてか?」
「もちろん、お力は振るって頂きたいのですが、西の辺境伯に協力を要請し援軍を頼んでおります。それから、第一騎士団、第二騎士団も集められるだけの騎士をそちらに向かわせます。あちらの軍はあらかじめ集められ用意された兵達です。どれだけの数がいるかわかりません。無茶はしないでください。とにかく、援軍がくるまで、こちらは一人の死者も出さずにあらがって欲しいというのが、ウィルフレッド・アバンス近衛騎士団長からの伝言です」
「随分と優しい指示を出す騎士団長なのだな・・・死者を出さずにか・・・ふっ、わかった。任せておけ。久々に腕が鳴るな。情報、助かった。北の辺境は、これより防衛に向けて準備する。アバンス団長によろしく伝えてくれ」
「はい、承知しました」
通信機の音が切れ、クレイドルは瞑っていた目を開くと気合をいれ直し、寝室を後にした。
ソハナスの侵攻か。何年振りだ?
しかしこんな時間にか・・・
騎士達には申し訳ないが、総動員だ!!
ーーーーーーーーーーーーーーーー
次回
・・・私では頼りないですか?お力になれませんか・・・
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